クロンウェシタトのイオアン神父


      神 父 と 労 働 の 家

 神父のク港就任17年間の祈りと愛の行いはついに貧民
乞食の心を生かすようになったとはいえ,かれらには家
がなく,職はなく,衣服はないといった具合で,ここに
おいて神父の着手した第一の事業は労働の家の設立であ
った。それは家なきものに家を,職なきものに職をとい
うことを主眼とした職業教育,孤児院,無料宿泊所,治
療所,図書室,その日の食なきもののためには,パン製
造所,なお多くの貧者乞食のための支出を賄うのがこの
労働の家の仕事であった。
 そして多くの乞食を救い,貧者を生きるようにされた
光景は当時の露国としてはまことに類例のない光景であ
った。

 ◎ある婦人が日曜の聖体礼儀に家族連れでやって釆た
祈祷後十字架接吻の時,携えて来た金一封を神父に渡し
た。すると神父はそれをそのまま他の婦人に渡した,こ
のことを見ていた当の婦人は,静かに神父に近づいて「神
父さん,あの中にとは3000ループリのお金が入っていたの
ですよ」と言うと,神父は「それがちょうどあの婦人に
必要なお金なのですよ」と言われた。

 ◎ある家に神父が招かれて祈祷を終わると,主婦は神
父に献金の封筒を差し上げた。すると神父が申されるの
には「この封筒をあなたが明朝街道に出て,第一番目に
会ったひとにあげて下さい」と言われた。主婦は明早朝
街道に出かけ,どのような貧しい人に会うのかと歩いて
いると,第一番目に会った人は将校であった。このよう
な人ではないと思って通り過ぎたのであったが,ほかを
見ても人の姿はなし,第一番に会ったのがあの将校だか
らと思って,将校のあとを追い,昨日のイオアン神父の
話をすると,その将校は眼より大きな涙を流して感謝し
て,その封筒をいただくのであった。

 ある日曜の祈祷後.十字架接吻こ来た一商人に神父
こ献金皿の上に積まれた多くの札をつかんで,その商人
に与えられた。武人は驚いて「私は貧乏人ではありませ
ん。財産もあり,献金もできるものです」と固辞すると
神父は「この金はあなたに必要な金ですから持って帰り
なきい」と言われるのであった。
 この商人は不思議に思って帰途についた。家に帰って
みると.家も倉庫も品物も全部焼けてしまっていた。も
し神父より与えられたお金がなかったならば乞食になっ
てしまうところであった。

 ◎イオアン神父は実業学校の教会科目の先生であった
ある時よくよく古びたリヤサを着て教室に出た。生徒が
「神父さん,どうしてそんなにひどいリヤサを着て来ら
れたのですか」と問うと,神父はこれに答えて「追剥さ〔
盗られたのですよ」と。そこで一つの疑問が起こる,た
ぜ神父には追剥の予知,予見ができなかったのかという
こと,その答えは福音吾に見られるとおり,悪魔が主ハ
リストスの事業を破らんとして,主を試みたように,悪
魔は神父の祈りと温柔とを破らんとしてそのようなこと
をするのを神が許されたのである。
 神父は言う「主は人を罪のために罰する場合と,まプ
人の信仰を試みるために罰する場合とがある」と。


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