教区定例学びの会 名古屋
「ロシア教会における列聖」

講師 ニコライ・ドミトリエフ神父

1月14日、講師に神戸教会のニコライ・ドミトリエフ神父さま、通訳に奥様のスヴェトラナ・マートシュカをお迎えして、『ロシア正教会における列聖』というテーマで「学びの会」が開かれました。名古屋、豊橋、半田教会から20名が参加し、豊橋からはイサイヤ酒井神父さまも駆けつけて下さいました。

日本では聖人といっても「亜使徒大主教聖ニコライ」以外あまり馴染みがありませんが、千年の歴史のあるロシアではたくさんの聖人の不朽体が聖堂内に安置され、人々は十字を描き、深く敬拝し、接吻する姿をよく見かけます。聖人とは簡単に言うと「神・聖神の恩寵を体得」した人々で、存命中の働きももちろんですが、死後も不朽体(モーシュ)を通してさまざまな奇蹟が行われることがあります。

 ロシアの聖人として有名な、たとえばラドネジの聖セルギイ、サーロフの聖セラフィム、クロンシュタットの聖イオアンなどは存命中からさまざまな奇跡を顕し、人々を助け、神に従う生き方を示しました。ニコライ神父さまは学生時代を聖セルギイ至聖三者修道院の神学校で過ごされましたが、毎朝至聖三者聖堂で聖セルギイの不朽体に祈るたびに、不思議なくらい心が浄められるような思いをされたそうです。

 聖人の列聖、つまり教会がその人を聖人と認めるかどうかは「シノド列聖委員会」という部署が専門に扱っています。ここは1988年の「ルーシ洗礼千年祭」のときに設置された部署で、そのときは9人の聖人が列聖されました。

 しかし、列聖は「委員会」主導ではなく、あくまでも、まず人々の中から「あの方は聖人にちがいない」「是非聖人に列聖していただきたい」という声から始まります。それが各区の主教に報告されます。主教はそれにこたえて、その人が聖人としてふさわしいかどうか、経歴や、歴史的資料、実際に接した人たちの証言や証拠を集めて調査し、自分の見解を添えて総主教聖下と「列聖委員会」に提出し、その上で検討されます。その人が正しい人生を送ったかどうか、非のうちどころのない正教会の信仰を全うしたか、人々から尊崇されていたか、奇蹟を大なったかなどポイントになります。

列聖は特定の人やグループの意図ではなく、教会として同意するかどうか、祝福するかどうかが大切です。政治的な意図で聖人にふさわしくない有名人、たとえばイワン雷帝や怪僧ラスプーチンを推挙する運動が行われることもあるので、委員会は慎重に検討します。

列聖委員会ではどういうタイトルの(成聖者か、克肖者か、亜使徒かなど)聖人にするか、奉神礼上どういう扱いにするか(祭の大きさ、ポリエレイを行うかどうか)なども決定します。ロシアの聖人には、ある特定の地域で尊崇されている「地域の聖人」の場合と全ロシア教会で尊崇される聖人の場合がありますが、「全教会の聖人」の場合には兄弟関係にある教会すべてに連絡され、その教会の教会暦(聖人リスト)に加えてもらいます。近年列聖された全教会の聖人、聖アンドレイ・ルブリョフやクロンシュタットの聖イオアンなどの場合も当然日本教会にも連絡されています。

聖人は私たちと同じ人間です。同じ地上に住んでいました。しかし彼らは自分の霊を神に適う潔いものにすることができた人たちです。彼らは自分の霊のために大きな仕事をしました。何度も何度も悔い改め、神への道をたゆまず歩み続けました。彼らは繰り返し深い痛悔機密にあずかりました。聖人たちは特別の人ですが、例外ではありません。私たちも聖人たちに倣って、この世にある間に痛悔を重ね、聖人の通った道を歩むことが望まれています。

 私たちも聖人の不朽体に敬拝したり、聖人伝に親しんだり、また奉神礼の暦の中で聖人を記憶したりして、聖人にならって、聖人に励まされながら、聖人たちとともに神への道を歩んで行きたいと思います。 (マリア松島純子記)