正教会聖歌 「祈りの音楽」
ウラジミル・モロザン博士 来日記念講演


 7月31日(日)午後、大阪ハリストス正教会を会場に西日本主教教区が主催する「正教会聖歌、祈りの音楽、その多様性と伝統」と題する講演会が行われた。講師は世界的なロシヤ正教会聖歌研究者であり、ロシヤ合唱音楽の普及にも力を注いでいるウラジミル・モロザン博士(アメリカ正教会信徒)。博士はこのたび京都で行われた第7回世界合唱シンポジウムに参加するために来日中であった。当日は近畿地方の大阪、京都、神戸を中心に全国各地から正教会信徒のみならず正教会聖歌に強い関心を寄せる他教派信徒、一般参加者も含め130名近くの聴衆を集めた。

 モロザン博士は、正教会聖歌が現地語での礼拝という正教会の伝統もあいまって地域と時代によって多様な展開をしてきたことをCDで紹介し、その多様性を貫く本質を次のように述べた。



 「聖体礼儀(リトゥルギア)は『新たなる神の民』教会のリトゥルギア(「共同の仕事」)をこの世に宣言する。そこで歌われる聖歌はこの聖体礼儀の構造と機能を表しているものでなければならない。聖職者、聖歌隊、会衆が互いに歌い聞き合う対話的な礼拝の中で、信徒全員がこの共同の仕事に能動的に参加し喜びを分かち合い『神の国のイコン』としての礼拝を具体化してゆく、これが聖歌の本質である。
 しかし近世から19世紀にかけてロシヤでは様々な歴史的事情からこの本質が曖昧になってしまった。西方教会をまねて聖歌隊がバルコニーから歌う、音楽的には高度でも、もはや会衆参加が不可能な華麗な多声合唱曲を信徒はただ『聴衆』として聞くという傾向が強まってしまった。それに対し聖歌の本質を回復しようという動きが20世紀初頭のロシヤ、また共産革命によって一時凍結状態になったその動きはアメリカ正教会などに受け継がれ、また共産主義崩壊後はロシヤでも再開し、正教聖歌の真の伝統が再び息づくようになった」。



 今回の講演会でも、ビザンティン時代に行われていた交唱形式での聖歌がいくつか紹介され、その対話的な一体感を体験するため聴衆も参加して歌った(写真)。

 参加者の一人はこう感想を述べた。「礼拝史、聖歌史など学問的にしっかり裏付けられた講演で正教会の礼拝の現状を否応なく振り返らされました。しかし博士の語り口には正教信徒なら誰でも持っている教会と礼拝への愛があふれており、同時に希望と励まし、そして指針も同時に与えられました。他教派の方々も来聴していたようですが、正教会の礼拝や聖歌を初代教会の礼拝の継承としてあらためて認識していただけたのではないでしょうか」。
(司祭松島記)