『第一全地公会規則』



ニケヤ第一全地公会規則

第一條 病中医師に陰茎を截断せられ或は夷民に閹割せられたる者は依然教衆たる可し。若し健康にして自ら閹割せし者は仮命(たとひ)教衆中に在りし者と雖も除黜す可きなり而して自今此の如き者を登庸す可らず。但し此事たる故意に之を行ひ妄りに自ら閹割する者を指すや勿論なり之に反して夷民或は主人に閹割せられたる者は若し其職に堪ふる時は規則(使徒規則二十一條)は之を教衆に加ふるを允許す。

第二條 已むを得ざるの事に由り或は其の他、人意に由りて教会規則(使徒規則八十條)に反するの事多く生じたり即ち異教の生活を棄て聖教に就きてより日尚浅く暫時啓蒙者たりし者を間もなく霊魂の浴盤に入れ而して洗後直に主教或は司祭の職に登庸するあり是故に以後決して此の如く行ふ可らざるを當然と認めたり。是れ啓蒙者にも時間を要し又洗後尚試験を為すを要すればなり。蓋し明に使徒の書に云ふ甫めて教に入る者よりせず恐くは自ら驕りて魔鬼の刑と網とに陥らんと(提摩太前書三章六節)若し時を経る間に霊の罪を認められ二人若くは三人の証者に定罪せられたる者は教衆より除黜せらる可し。之に反して行ふ者は敢えて大公会に抗する者として自ら教衆除黜の危難に服する者とす。

第三條 大公会確定せしこと左の如し主教或は司祭或は輔祭或は凡て教衆中に在る者は家に同居の婦を置くを許さず但し母或は姉妹或は伯叔母或は全く嫌疑無き者は此の限に非ず。

 此規則の主意は神品たる者の嫌疑を防ぐに在り故に此に制定せられし禁は唯無妻の司祭、輔祭及び副輔祭に関す可し蓋し夫婦相住むの家には妻について他の婦女居住するも疑を生ぜざるなり。

第四條 主教は其州中の悉くの主教にて立つるを最も適当なりとす。若し已むを得ざるの事故に由り或は道路の遠隔なるに由り之を行ふに不便なる時は少なくとも三主教一所に集会し、不参の者は書を以て同意を表し而して後按手を行ふ可し。各州に於て此の如き事を認定するは其の府主教(ミトロポリト)に属す。

第五條 凡そ主教等に其の各教区(エパルヒヤ)内に於て教会の親與を絶たれたる者に関しては教衆に属すると俗人たるとに論なく或主教に親與を絶たれし者は他主教にて受けらる可らざることを制定したる規則(使徒規則三十二條)を遵守す可し。然れども彼等或は主教の小量に由り或は争論に由り或は其の他之れに類するの不満に由りて親與を絶たれたるに非ざるなきかを審査すべし。故に此事の適当の審査を為すが為に至当と認めたること左の如し各州に於て一年に二回公会を為し凡て州中の諸主教一所に集会して此の如き紛議を審査し而して確然主教に対して不正なりと認められし者は衆人断然之を親與に受くるに堪えざる者と認定し以て諸主教の公会が更に寛大なるの決断を山宣告するを可とする時を待つ可し。公会は一は四旬齋期の前に於てす可し。凡ての不満を除却して神に潔浄の供物を献ずるが為めなり。又一は秋季の頃に於てす可し。

第六條 エギベト、リウィヤ、ペンタポリに行はれ来れる舊慣を遵守しアレキサンドリヤの主教は此等諸教会の上に権を有す可し。蓋しロマ主教にも亦此例有り。又同くアンティオヒヤ及び其の他の諸州に於ても教会の特典を守る可し。凡て左の事明白たる可し。則ち凡そ府主教(メトロポリト)の許なくして主教に立てられたる者は大公会其者の主教たる可らざるを定めたり。若し衆人の公選其の當を得て教会の規則に適合するも二三人自己の好辨に由りて之に抗する時は選挙者の多数の意見之に勝つ可きなり。

第七條 エリヤ(イエルサリム)に居るの主教を敬重す可き慣例古傳確定するに由り彼れは首府(ミトロポリヤ)に予へられたる特典を保有して名譽の順を有す可し。

第八條 嘗て自ら潔浄者と稱せし者にして公、使徒の教会に合する者は聖大公会之に手を按して依然教衆たらしむべきを適当と為す。彼等は先づ書を以て公、使徒の教会に合し其の制規に順従す可きこと即ち再婚者及び窘逐の時倒れたる者の為には悔改の時間も定められ赦罪の期限も定めらるるを以て之れを教会の親與に受く可きことを証す可し。彼等萬事に於て公教会の制規に順従す可きを要す。故に凡そ邑村若くは市府に於て教衆たる者唯彼等より接手を受けたる者なる時は其の位に居る可し。若し公教会の主教有る所に於て彼等の中より教会に帰依する者あれば正教会の主教は主教の位を有し而して潔浄者と稱する者の所謂主教は司祭の尊敬を有す可きこと勿論なり但し該地の主教は其の者も主教の名称の尊敬に與かることを可とする時は此限に非ず。若し主教之を欲せざれば形式上之を教衆に加ふるが為め「ホレエビスコプ」若くは司祭の任所を設け以て一市府に二主教有らざらしむべし。

 ロマ教会の司祭「ノワト」党派の異端者自ら潔浄者と稱せり彼等窘逐の時倒れたる者を悔改に受けず、再婚者は決して之を教会の親與に受く可らざるを教へ自ら以て己の社会の潔浄は此の傲慢不人情の説にありと為せり。

第九條 試験を経ずして司祭に挙られたる者若くは試験の時己の罪を告解したれども其の告解の後規則に違背して按手せられたる者あれば規則(使徒規則二十五條)は此の如き者に聖務を行ふを許さず。蓋し公教会は必ず無玷を要するなり(提摩太前書三章ニ節)。

第十條 若し棄教者たる者、登庸者の不知に由り若くは知りて教衆に挙られたるときは教会規則の効力を弛めず。蓋し此の如き者は発覚の後聖位を除黜せらる可し。

第十一條 リキニイの窘逐の時の如く強迫に因り若くは財産没収の故に因り若くは危害に因り若くは其の他之に類するの事に依るに非ずして教を棄てたる者には慈憐を加ふべきに非ざれども公会は之を優恤す可きを定めたり。故に誠心に悔改する者は三年間信者の如く誦経聴聞人の中に在り七年間聖堂に俯伏して赦罪を請求し二年間聖機密を領するの外人民と共に祈祷に與かる可し。

第十二條 恩寵にて教を認むるに召され初め熱心の熾んなるを顕はして軍帯を脱せしも其の後犬の如く転じて其の吐きたる物を食はんとし或は金銀を用ひ或は賄賂を以て軍職に復するに至りし者あり此の如き輩は三年間啓蒙所に在りて聖書を聴聞せし後十年間聖堂に俯伏して赦罪を請ふ可し。凡て此事に於ては宜しく当人の心地と悔改の情状を酌量す可し。蓋し外儀を以てせず恐懼、流涕、忍耐、慈恵を以て実行上に反正を証する者は定時間聴聞せし後祈祷に與からしむるは至当なり。加之主教は猶之に慈憐の処置を施して可なり。然れども己の犯罪を軽視し唯聖堂に入るの一事を以て自ら反正に足れりと為す者は之をして全く痛悔の時限を遵行せしむ可し。

第十三條 臨終の者に関しては今も古の律法規定を守り臨終者をして最後の且最も緊要なる引導を受けざるが如き事なからしむ可し。若し既に生存の望なくして領聖し而して再び生に復る時は唯祈祷に與かる者の中に加はる可し。凡て臨終の者は何人たるを問はず凡そ聖體を領するを請ふ時は主教の吟味を以て之に聖賜を授く可し。

第十四條 啓蒙者にして倒れたる者に関しては聖大公会は之に三年間唯聖書聴聞人の中に在り而して後啓蒙者と共に祈祷す可きを適当と為す。

第十五條 多くの紛擾及び生起せし紛乱の故に由り使徒規則に反して或地方に行はるるの風習は全く禁止す可きを議定したり即ち主教或は司祭或は輔祭は一市府より他の市府に移転す可らざること是なり。若し此聖大公会の制定の後此の如き事を企て若くは自ら己れに対して此の如き事を為すを許す者ある時は其の処置を以て全く無効の者と為し移転せし者は其の主教或は輔祭に按手せられたるの教会に返さる可し。

第十六條 司祭或は輔祭或は凡て教衆に属する者軽率にして且つ眼前に神を畏るるの心なく、教会の規則(使徒規則十五條)に通暁せずして自己の教会を離るる時は他の教会に於て決して之を受く可らず之に諸般の説諭を加へ其の管区に帰らしむ可し執拗して聴かざれば之に親與を絶つ可きなり。又若し誰か妄りに他人の管轄属する者を奪ひ之を其の本主教即ち其の教衆に属する者が避けし所の主教の承諾を経ずして按手する時は其の按手は無効の者たるべし。

第十七條 教衆に属する者、貪欲、利欲に耽り聖書に銀を貸して利を取らず(聖詠十四ノ五)と云へるを忘れ、貸附けを為して百分の利を要求する者多きに由り聖大公会裁定せしこと左の如し若し此の制定の後貸金の利息を取る者若くは他の方法を以て此の業を営む者若くは半利を要求する者若くは其の他耻づべき利慾の為に何事をか企つる者あれば教衆より除黜せられ神品の部類より除かる可し。

第十八條 聖大公会聞く所に依るに奉献するの権なき者が奉献する者にハリストスの體を授与することは規則にても慣例にても傳はらざるに或る地方及び或市府に於て輔祭が司祭に聖體機密を授與する事ありと。且つ補祭にて主教に先だち聖體機密に触るる者さへ有りとのこと判明せり。故に宜く此等の弊を一掃し輔祭は己れ主教の役者にして司祭より下位の者たるを知り己の分に止る可し。彼等宜しく順次に由りて司祭の後に主教或は司祭の授与する聖體機密を領すべし。又輔祭は司祭の間に並座することも許さず。蓋し是れ規則に由らず亦順序に由らざる者なり。若し此の制定の後聴従するを欲せざる者あらば其の輔祭職を停禁す可し。

第十九條 「パウリアン」党人にして後、公教会に應ぜし者に就ては凡て復び之に施洗す可きの制を定む。若し前に教衆に属せし者にして無玷且つ責む可きなき者は再洗の後公教会の主教之を按手す可し。若し試験に由りて彼等の神品たるに堪へざるを発見する時は聖位を除黜せらる可き者とす。又女輔祭及び凡て教衆に属する者に関しても同じく此のを遵行す可し。女輔祭とは我等衣服に由りて斯く稱せらるる者を云ふ。但し彼等は按手を受けたることなきが故に全く俗人に加へらるるを得可し。

第二十條 主日及び五旬日に膝を屈むる者あるに由り各教区(エパルヒヤ)に於て皆同規を守らんが為め聖公会は立て神に祈祷するを可とす。


TOP | BACK