生神女マリアのアカフィスト祈祷


生神女アカフィスト祈祷

讃詞(トロパリ) 第八調
 無形の者は命ぜられしことを奥密に智識に受けて、すみやかにイオシフの家に現れて、婚姻に与らざる者に言えり、天を傾けて降りし主は変易なく全くして爾の内に入り給う。爾の胎内に僕の形を受けしを見て、我驚きて爾に呼ぶ、聘女(よめ)ならぬ聘女よ、慶べ。

小讃詞(コンダク) 第八調
 生神女よ、我等爾の諸僕は禍より援けられしを以て、爾克(よ)く勝つ将帥に凱歌(かちうた)と感謝とを奉る、勝たれぬ権能(ちから)を有(たも)つに由りて、我等を諸(もろもろ)の苦難より救い、爾を歌いて呼ばしめ給え、聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

1,同讃詞(イコス)
 首品の天使は天より生神女に慶べよと云わん為に遣わされて、此の無形の声と共に、主よ、爾が身を取るを見て、驚きて立ち、斯く彼に呼べり、

  喜の耀かんとする所以の者よ、慶べ、
  詛の滅せんとする所以の者よ、慶べ。
  陥りしアダムを喚び起す者よ、慶べ、
  エワの涙を拭う者よ、慶べ。
  人の意念(おもい)の登り難き巍崇(たかさ)よ、慶べ、
  天使の目にも見難き深邃(ふかさ)よ、慶べ。
  王の座たるに因りて慶べ、
  万物を載する者を載するに因りて慶べ。
  日を顕す星よ、慶べ、
  神が身を取る腹よ、慶べ。
  造物の新にせらるる所以(ゆえん)の者よ、慶べ、
  我等が造物主に伏拝する所以の者よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

2,小讃詞
 聖なる者は己の潔浄を見て、毅然としてガウリイルに言う、爾が告ぐる所の奇異なる事は吾が霊(たましい)のの為に受け難く現る、蓋爾は如何ぞ種なき降孕(はらみ)の産の事を言いて呼ぶ、アリルイヤ。

3,同讃詞
 童貞女は悟られぬ奥秘を悟らんと欲して、奉事する者に呼べり、潔浄(けつじょう)の胎より如何ぞ子の生まるるあらん、我に言え。彼は畏れを以て斯く之に呼びて云えり、

  言い難き議定の秘密者よ、慶べ、
  黙然を要する奥義を信ずる者よ、慶べ。
  ハリストスの奇跡の始よ、慶べ、
  彼の教えの首要なる者よ、慶べ。
  神の降りたる天の梯よ、慶べ、
  地上の者を天に度す橋よ、慶べ。
  諸天使の大に栄する奇跡よ、慶べ、
  諸悪鬼の大に悲しむ痛傷よ、慶べ。
  言い難く光を生みし者よ、慶べ、
  如何にと何人にも教えざりし者よ、慶べ。
  睿智者の智慧に超ゆる者よ、慶べ、
  信者の智識を照す者よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

4,小讃詞
 其(その)時至上者の能(ちから)は婚姻に与らざる者を妊孕(はらみ)の為に蔭(おお)い、其胎を甘美なる田の如く、凡そ救を刈らんと欲する者の為に善き実を結ぶ者と為して、彼等に斯く呼ばしむ、アリルイヤ。

5,同讃詞
 童貞女は神を受けし胎を有ちて、エリサウェタの許に上りしに、其胎兒(はらみご)は直に彼の安を問うを知りて、喜び踊りて、歌を以てするが如く生神女に呼べり、

  枯れざる枝の芽よ、慶べ、
  不死の果を獲たる者よ、慶べ。
  仁愛なる農夫を出(いだ)す者よ、慶べ、
  我が生命の栽培者を生む者よ、慶べ。   慈憐の豊なるを生ずる疇(はめ)よ、慶べ、
  潔浄(きよめ)の充満を戴する案よ、慶べ。
  楽園を繁栄せしむるに因りて慶べ、
  霊(たましい)の為に港を設くるに因りて慶べ。
  祈祷の嘉く納れらるる香烟よ、慶べ、
  全世界の潔浄(きよめ)よ、慶べ。
  死すべき者に対する神の恵みよ、慶べ、
  神に対する死すべき者の勇敢(いさみ)よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

6,小讃詞
 無玷なる者よ、貞潔なるイオシフは、婚姻せざる爾を見て、窃(ひそか)に婚姻したりと思いて、己の内に疑の思いの暴風(あらし)を抱きて、心擾れたり、然れども爾が聖神に由る懐孕(はらみ)を知りて云えり、アリルイヤ。

7,同讃詞
 牧者は天使等がハリストスの肉体に於ける降臨を歌うを聞きて、之に牧師に於けるが如く急ぎ来たりて、其無垢なる羔の如くマリヤの腹に養われしを見て、歌いて云えり、

  羔及牧師の母よ、慶べ、
  霊智なる羊の牢(おり)よ、慶べ。
  見えざる敵を防ぐ者よ、慶べ、
  楽園の門を啓く者よ、慶べ。
  天の者が地の者と偕に喜ぶに因りて慶べ、
  地の者が天の者と偕に楽しむに因りて慶べ。
  使徒等の黙(もだ)さざる口よ、慶べ、
  受難者の勝たれぬ勇敢(いさみ)よ、慶べ。
  信の堅固なる保固(かため)よ、慶べ、
  恩寵の輝ける印章(しるし)よ、慶べ。
  地獄の剥がれたる所以の者よ、慶べ、
  我等が光栄を衣せられたる所以の者よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

8,小讃詞
 博士は神妙に行く星を見て、其光に従い、之を燈(ともしび)の如く執りて、此に由りて権能の王を尋ね、詣(いた)り難き者に詣りて、歓びて彼に呼べり、アリルイヤ。

9,同讃詞
 ハルデヤの諸子は童貞女の手に人を其手にて造りし者を見て、彼が僕の形を受けたりと雖(いえども主宰たるを悟りて、熱切に此に礼物を奉りて、祝福せられし者に呼べり、

  没せざる星の母よ、慶べ、
  奥密の日の暁よ、慶べ。
  迷の炉(いろり)を滅しし者よ、慶べ、
  聖三者の秘密者を照す者よ、慶べ。
  残忍なる暴虐者の権を空しくする者よ、慶べ、
  仁愛なる主ハリストスを顕しし者よ、慶べ。
  偶像の役事より釈く者よ、慶べ、
  悪業の濘(ひじ)より出す者よ、慶べ。
  火の敬拝を滅せし者よ、慶べ、
  諸欲のほのおより救う者よ、慶べ。
  信者を貞潔に導く者よ、慶べ、
  万族の楽(たのしみ)よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

10,小讃詞
 捧神なる伝道師と為りし博士は、爾に関する預言を応わせ、衆に爾ハリストスを伝えて、ワウィロンに帰り、イロドを虚言の者として遺せり、蓋彼は歌うを知らざりき、アリルイヤ。

11,同讃詞
 救世主よ、爾はエギペトに真実の光を耀かして、偽の幽暗(くらやみ)を逐い給えり、蓋彼処の偶像は爾に力を勝(た)えずして、墜ちたり。此等より救われたる者は生神女に呼べり、

  人人の矯正(あらため)よ、慶べ、
  悪鬼の傾倒(たおれ)よ、慶べ。
  誘惑(いざない)の権を践みたる者よ、慶べ、
  偶像の虚誕(いつわり)を顕しし者よ、慶べ。
  無形のファラオンを溺らしし海よ、慶べ、
  生命(いのち)に渇く者に飲ませし石よ、慶べ。
  幽暗に在る者を導く火の柱よ、慶べ、
  雲より広き世界のおおいよ、慶べ。
  「マンナ」に継ぐ糧よ、慶べ、
  聖なる甘味を頒つ者よ、慶べ。
  許約の地よ、慶べ、
  蜜と乳とを流す者よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

12,小讃詞
 シメオンは今の迷の世より移らんとせしに、爾は赤子として彼に与えられたり、然れども彼に亦完全なる神として知られたり。故に彼は爾の言い難き睿智を奇として呼べり、アリルイヤ。

13,同讃詞
 造物主は我等彼に由りて造られし者に現れて、新なる造物を示し給えり。蓋種なき胎より生じて、之を元のまま不朽の者として護れり、我等が奇跡を見て、之を歌いて呼ばん為なり、

  不朽の花よ、慶べ、
  節制の栄冠よ、慶べ。
  光明に復活を形(かたど)る者よ、慶べ、
  天使の度生を顕す者よ、慶べ。
  美しき果を結ぶ樹、信者の之に由り養わるる者よ、慶べ、
  蔭の繁き樹、衆(おお)くの者の其下に蔽(おお)わるる者よ、慶べ。
  俘虜(とりこ)を釈く者を孕魅し者よ、慶べ、
  迷える者の嚮導者を生みし者よ、慶べ。
  議なる審判者に転達する者よ、慶べ、
  多くの罪の赦免(ゆるし)よ、慶べ。
  裸体者の勇敢(いさみ)の衣よ、慶べ、
  凡ての望に超ゆる愛よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

14,小讃詞
 我等は奇異なる産を見て、智慧を世より離して天に移さん、蓋至高き神が地上に謙卑なる人と現れしは、殊に彼に呼ぶ者を高きに登(のぼ)せんと欲したればなり、アリルイヤ。

15,同讃詞
 形どられぬ言は全くして下(しも)に在り、亦全くして上(かみ)に離れざりき、蓋成りたることは処所(ところ)の変遷に在らずして、神聖なる謙遜(へりくだり)と神を孕みし童貞女よりの降誕(うまれ)なり。故に我等之に呼ばん、

  容れられぬ神の容処(いれどころ)よ、慶べ、
  尊き奥密の門よ、慶べ。
  不信者の疑はしき風聞(きこえ)よ、慶べ、
  信者の確かなる誇よ、慶べ。
  ヘルウィムの上に居る者の至聖なる輅(くるま)よ、慶べ、
  セラフィムの上に居る者の至栄なる居処(すまい)よ、慶べ。
  抗敵する者を一に集めたる者よ、慶べ、
  童貞と生産とを合せし者よ、慶べ。
  犯罪の釈かれたる所以の者よ、慶べ、
  楽園の開かれたる所以の者よ、慶べ。
  ハリストスの国の鑰(かぎ)よ、慶べ、
  永遠の福の恃頼(たのみ)よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

16,小讃詞
 凡そ天使の性は爾が人と為りし大なる事に驚きたり、蓋神として近づき難き者を衆に近づき易く、我等と偕に居り、衆に歌わるる人として見たり、アリルイヤ。

17,同讃詞
 生神女よ、我等は多言なる弁舌家を爾の前に魚の如く無言なる者と見る、蓋彼等は如何に爾が童貞女に止まりて生むことを得たるを述ぶるに惑う。惟我等は奥密を奇として、信を以て呼ぶ、

  神の睿智の器よ、慶べ、
  彼の思慮(おもんばかり)の宝蔵よ、慶べ。
  智識を誇る者を無智者と現す者よ、慶べ、
  能弁者を無言者と為す者よ、慶べ。
  非理なる研究者の無能なるに因りて慶べ、
  虚説を作る者の衰えたるに因りて慶べ。
  アフィニの編物を裂く者よ、慶べ、
  漁者の網をみつる者よ、慶べ。
  無知の深処(ふかみ)よい引き出す者よ、慶べ、
  許多(あまた)の者の智識を照らす者よ、慶べ。
  救を望む者の船よ、慶べ、
  生命の海を渡る者の港よ、慶べ。

   聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

18,小讃詞
 万有を飾る主は世界を救わんと欲して、己の許約に由りて此(これ)に来り、牧者として神は我等の為に我等に似たる人と現れ給えり、蓋同じき者を以て同じき者を召して、神として聴く、アリルイヤ。

   19,同讃詞
 至浄なる生神童貞女及び凡そ爾に走り附く者の為に垣墻(かき)なり。蓋天地の造成者は爾の胎内に居りて、斯く爾を造り、且衆に教えて爾に呼ばしむ、

  童貞の柱よ、慶べ、
  救いの門よ、慶べ。
  心霊の再興の所以の者よ、慶べ、
  神聖なる仁善を与うる者よ、慶べ。
  不法に於て妊まれたる者を新にせしに由りて慶べ、
  智慧の乏しき者を教えしに由りて慶べ。
  意念の破壊者を空しくする者よ、慶べ、
  潔浄を播く主を生みし者よ、慶べ。
  種なき婚姻の宮よ、慶べ、
  信者を主に配合せし者よ、慶べ。
  童貞女の善良なる教育者よ、慶べ。
  聖なる霊を聘女として主に携うる者よ、慶べ。

      聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

20,小讃詞
 聖なる王よ、凡の歌、爾の洪恩の大数を述べんと欲する者は之を尽くす能わず。蓋我等若し砂(まさご)の数の如き歌を爾に捧ぐとも、爾が我等に賜いし諸恩に適うことを一も行わず、故に爾に呼ぶ、アリルイヤ。

21,同讃詞
 我等は聖なる童貞女を幽暗(くらやみ)に現れたる輝ける燈(ともしび)と見る、蓋彼は無形の火を燃して、其W煌(かがやき)を以て衆の智慧を照して、神聖なる智識に導く。故に衆は彼を尊みて斯く呼ぶ、

  無形の日の光線よ、慶べ、
  暮れざる光のW煌よ、慶べ。
  霊を照す雷よ、慶べ、
  雷の如く敵を畏れしむる者よ、慶べ。
  大なる光の光照をWかすに因りて慶べ、
  多水の川を流すに因りて慶べ。
  洗盤の型を画(しる)す者よ、慶べ、
  罪の汚を除く者よ、慶べ。
  良心を滌う盤よ、慶べ、
  歓楽を斟む爵よ、慶べ。
  ハリストスの馨香(けいこう)の馥気(かおり)よ、慶べ、
  奥密の楽の生命よ、慶べ。

      聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

    22,小讃詞
 衆人の罪債(おいめ)を解く主は古の罪債を赦す恩寵を賜わんと欲して、親(みずか)ら彼の恩寵に離れたる者に来り、書券(かきつけ)を裂きて、衆より聴き給う、アリルイヤ。

23,同讃詞
 生神女よ、我等皆爾の産を歌いて、爾を活ける殿として讃め揚ぐ。蓋万物を其手に持(たも)つ主は爾の腹に居りて、爾を聖にし、爾を栄し、衆に爾に呼ばんことを教え給えり、

  神及言の住居よ、慶べ、
  至聖所より高き物よ、慶べ。
  聖神にて金装せられたる櫃よ、慶べ、
  生命の尽くされぬ宝蔵よ、慶べ。
  虔誠(けんせい)なる諸王の尊貴なる栄冠よ、慶べ、
  敬虔なる諸司祭の尊き誉よ、慶べ。
  教会の動かされぬ柱よ、慶べ、
  国の壊られぬ墻よ、慶べ。
  勝利の旗の挙げらるる所以の者よ、慶べ、
  敵の墜さるる所以の者よ、慶べ。
  吾が体の医治(いやし)よ、慶べ、
  吾が霊の救よ、慶べ。

      聘女ならぬ聘女よ、慶べ。

24,小讃詞 斯の小讃詞は三たび誦すべし。
 嗚呼賛美たる母、衆聖者より最聖なる言を生みし者よ、今の奉献(ささげもの)を受けて、爾に呼ぶ衆人を凡の禍より救い、及び将来の苦より脱れしめ給え、アリルイヤ。

 次に復第一の同讃詞を誦す、「首品の神使は」。

 並に復小讃詞、「生神女よ、我等爾の諸僕」。


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