なごや聖歌だより
聖王ダヴィード
聖詠作者
2008年3月号

奉神礼(礼拝)と聖書

聖詠(詩編)に親しむ


68聖詠(69詩編)18-19

爾の顔(かんばせ)を爾の僕にかくすなかれ、
 我哀しめばなり、
   速やかに我に聴きたまえ、
我が霊(たましい)に近づきて、これを援けよ



乾酪の主日(今年は3月9日)「赦罪の晩課」の中で、この大ポロキメンが歌われ、宝座やアナロイの覆い、祭服などが黒色に変わり、灯りが消されます。大斎の始まりです。連祷は斎調になり、エフレムの祝文をとなえ伏拝します。
 第68聖詠は神に救いを求めて苦しむしもべの歌です。「神よ、わたしを救ってください。・・・・大水の深い底にまで沈み奔流がわたしを押し流します(1-3)」。大斎を前にして、わたしたちは楽園を追われたアダムのように「帰りたい」と希求しながら、罪の水底に沈んで自力では昇ってゆけません。
 苦しむしもべはイイススその人でもあります。神の子は救いの道を備えるために人の子となりました。ヘブル書には「ハリストスは肉において生きておられたとき、激しい叫び声をあげ、涙を流しながらご自分を救う力のある方に、祈りと願いとをささげ、その恐れ敬う態度のゆえに聞きいれられました。(5:7)」とあります。ハリストスの救いの道は受難の道、十字架の死の道でした。この聖詠22節には「膽(い)」と「醯(す)」を飲ませたとあり、十字架の死が預言されています(イオアン19:29)。
 
爾の顔(かんばせ)を爾の僕にかくすなかれ、 我哀しめばなり、
速やかに我に聴きたまえ、
我が霊(たましい)に近づきて、これを援けよ
(あなたのしもべに御顔を隠すことなく苦しむわたしに急いで答えてください。 わたしのたましいに近づき、贖ってください)


 このポロキメンに対し、第1句「神よ、願わくは爾の助けは我を起こさん(神よ、わたしを高く上げ、救ってください)」、第2句「苦しむものはこれを見て悦ばん(苦しむものはこれをみて悦ぶでしょう)」第3句「神を尋ぬるものよ、爾等の心は活きん(神を求めるものよ、あなた達の心は活きるでしょう)」と希望に満ちた句が詠われ、大斎を始めるわたしたちを励ましています。
 大斎は喜びの道です。赦罪の晩課の「主や爾に呼ぶのスティヒラ」には
我等は欣ばしく斎の時を始め、属神の勤労に己を委ねて、霊を浄め、体を潔くし、食に於けるが如く凡その慾を斎して、属神の諸徳を楽しまん、皆熱切にこれに進みて、ハリストス神の至尊なる苦及び聖なるパスハを~゚を以て喜びて見るを得ん為なり 。
・・わたしたちは光の中で斎の時を始め、~°の戦いに自らを備える。自分の魂と体を浄めよう。食べ物を節制し、すべての情念から離れよう。~°による正しさを楽しみ、愛をもって忍耐しよう。そうすればハリストス神の厳粛なる受難と、~°の大きな喜びをもってハリストスの聖なるパスハを見るにふさわしくなれるだろう。

 斎は『神の国へ帰る』道です。目的地は見えています。ふるさとへ帰る喜びの旅路です。


参考資料:『聖詠経』、口語訳聖書『詩編』、Christ in the Psalms Patrick Henry Readon, Commentary on the Psalms, 正教基礎講座テキスト『奉神礼』(トマス・ホプコ神父)、Fr.Alexander Schumemann, Great Lent, SVS, Bishop Kallistos and Mother Maria, The Lenten Triodion, Faber and Faber