なごや聖歌だより
2004年2月号

ウラディミル神学校の聖歌研修 その4

マリアまつしまじゅんこ

4.実習−−祈りのハーモニー

 講義に続いて、初級上級の二つのコースに分かれて、夜9時まで実習が行われます。初級は奉事規程(祈りの順序のきまり)、誦経、八調(スティヒラやトロパリを祈祷書だけを見ながら歌う)、指揮入門など聖歌の初歩から、上級コースは指揮法、発声指導、作曲とビザンティン・チャントなど幅広い聖歌の伝統と応用を学びます。今回私は上級コースに参加させて頂きました。
 いずれの実習も聖歌を奉神礼として位置づけ、指揮者は聖歌だけを切り取って芸術として自分の音楽を求めてはならず、まず、奉神礼全体の流れと意味、奉事規程、祈祷書の文(歌詞)と音楽両方の内容の十分な理解が必要で、同時に毎回状況の異なる祈りの場において、神品教役者とのハーモニーにも気を配り、参祷するものの息を合わせていく役目があります。また、聖歌の力量や理解の段階が様々な各教会の現実の「音(声)」に耳を傾け、そこからその教会の音色を育ててゆく地道な努力も求められました。
 発声指導や音取りの練習も「ハーモニー(調和)」のとれた発声や音程を各人が「心地よい」ものとして体得できるような指導を心がけるように教えられ、ゲーム感覚の学習法も体験しました。
 作曲は大げさなものでなく、短い祈祷文に適切な音楽付けをする練習で、祭日の第一アンティフォンのリフレイン(繰り返し)「救世主や、生神女の祈祷によって我等を救い給へ」が課題になりました。文そのものの意味、言語が本来持つ抑揚やリズムを生かすことはもちろん、奉神礼の中でその歌が果たす役割や意味を考えて、ふさわしい音楽を探します。
 課題のアンティフォンは奉神礼的に見れば「対話」、神との出会いへ向かう「行進」、この後読まれる「福音」へと心が動き出す歌です。混声合唱、単音、ビザンティン風など、どんな形式でもかまわないが、リフレインは全員参加が前提なので、誰でも歌える無理のない音域におさめること、一度聞いたら覚えられる易しい歌であることが条件です。
 参加者はそれぞれ仲間を募って練習し、最終日の発表会で先生から寸評をいただききました。ちょっとした音の配置で歌いやすさ、聞き取りやすさが違ってきます。また、音楽に凝りすぎると音楽そのものに気を取られて気持ちが祈りから離れてしまう危険性も指摘され、ここでもハーモニー(調和)の大切さを教えられました。
 短い一週間の研修会でしたが、講義も実習も意欲的で喜びにあふれ、正教会の「伝統」とは表面的な「しきたり」や「慣習」で人を縛りつけ、凍らせてしまうような硬直したものではなく、人と教会を生かすものであることをあらためて実感しました。今回学んだことは、アメリカと日本での言語や事情の違いがあり、私たちの実情にそのまま適用できるものではありませんが、今後の活動への大きな励ましと指針になりました。
 旅の終わりに、コンスタンティン・ホワイト神父とニーナ(原田)夫人をワシントンに訪ね、聖ニコラス大聖堂に参祷しました。大きな主教座聖堂ですが、神品の祈りと聖歌がひとつに感じられ、言語や習慣は違ってもハリストスの愛にあふれた温かい集いに元気づけられました。(おしまい)
聖堂の前でニーナさんと。
ちょうど独立記念日のお祝いのある日で、アメリカの聖人のトロパリがたくさん歌われていました