第三編

 尊貴にして生命を施す十字架の総奉事



 晩課

 「主よ爾に籲(よ)ぶ」に讃頌(スティヒラ)、第四調。

今日信者の大数は喜ぶ、蓋救世主の十字架は四極に現れて、近づき難き光を以て穹蒼(おほぞら)を照し、空中を聖にし、地の面を飾る、ハリストスの教会は上より之に賜はりて、之を護る神聖にして奇妙なる十字架を尊みて、属神゜の歌を以て之を崇め讃む。我等は其力に堅められて、主宰に就きて呼ぶ、世界を平安にして、我等の霊を照し給へ。

造物は喜びて祝ふべし、今日十字架は天より四極に輝き、地上の者を照して、散らされたる者を合はす。今日天使の品位は人人と偕に祝ふ、蓋十字架を以て隔ての籬(かき)は壊(こぼ)たれ、衆は一(いつ)に合せられたり。十字架は日よりも耀きて、恩寵にて萬物を照し、信を以て之を尊む者を救ふ。

世界の終に日よりも盛んに輝きて現れんとするハリストス王の帝笏たる尊き十字架は今明に四極に光る。此は人類を死より出し、地獄を破りて之を虜にし、悪鬼の傲慢を全く亡ぼし、救世主の復活を伝へて、主宰に呼びて、世界を平安にして、我等の霊を照し給へと言ふ者を救ふ。

  光栄、今も、第八調。

ハリストス神よ、我等罪なる者は今日爾の尊き十字架に伏拝す。昔モイセイは己を以て之を預象して、アマリクを斃(たふ)して勝ち、聖詠者ダワィドも爾の足台に伏し拝むを命じて、之を示せり。我等は不当の口を以て、爾其上に甘んじて釘せられし者を歌頌して祈る、主よ、盗賊と偕に我等を爾の国に入るに勝へさせ給へ。

  聖入。本日の提綱(ポロキメン)。喩言(パリミヤ)三篇。

  エギペトを出づるの記の読 十五章及十六章

モイセイはイズライリの諸子を紅海より導きて ―(第三巻百三十六頁二百三十四喩言をうつす)

  箴言の読 三章

我が子よ、主の懲治を軽んずる勿れ ―(第三巻百三十七頁二百三十五喩言をうつす)

  イサイヤの預言書の讀 六十章

主是くの如く言ふ、イエルサリムよ、爾の門は常に啓かれ、―(第三巻百三十八頁二百三十六喩言をうつす)

  挿句(くづけ)に讃頌(スティヒラ)、第二調。

言よ、教会は爾の神聖にする水及び血を以て新婦(はなよめ)の如く美(うるは)しく飾られて、十字架の光栄を歌ふ。

句 主我が神を崇め讃め、其足台に伏し拝めよ、是れ聖なり。

十字架と偕に戈、釘、及び其他ハリストスの生命を施す身を釘するに供せし者を挙げて伏拝せん。

句 神我が古世よりの王は救を地の中に作(な)せり。

モイセイは十字形に手を挙げて、アマリクに勝ちし時、ハリストスの至浄なる苦を形れり。

  光栄、今も、第一調。

ハリストスよ、太祖イアコフは爾の十字架を預象して、孫に福を降す時、己の手を其首(かうべ)に易へたり。救世主よ、我等今日此を挙げて籲(よ)ぶ、コンスタンティンに敵に勝つを賜ひし如く、我が皇帝に勝利を與へ給へ。

  「主宰よ、今爾の言に循ひて。」 聖三祝文。「天に在す」の後に讃詞(トロパリ)

「主よ、爾の民を救ひ。」 并に発放詞。

  早課

  「主は神なり」に同上の讃詞(トロパリ)、三次。

  第一の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第六調。

主ハリストスよ、爾の十字架の木の樹(た)てらるるばかりにして、死の基は震へり、蓋地獄が貪りて呑みたる者を慄きて出せり。聖なる者よ、爾は我等に爾の救を顕せり、我等爾を讃頌す、神の子よ、我等を憐み給へ。

  光栄、今も、同上。

  第二の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第六調。

今日預言者の言は應へり、蓋視よ、我等は爾主の足の立ちし處に伏拝す、獨人を愛する主よ、我等は救の木を獲て、罪悪の諸慾より釈(と)かれたり、生神女の祈祷に因りてなり。

  光栄、今も、同上。

  「主の名を讃め揚げよ」の後に附唱、

生命を賜ふハリストスよ、我等爾を讃揚して、爾が我等を敵の奴隷より救ひし聖なる十字架を尊む。

  抜粋聖詠

主よ、我と争ふ者と争ひ、我と戦ふ者と戦ひ給へ。

  多燭詞(ポリエレイ)の後に坐誦讃詞(セダレン)、第八調。

木は曩(さき)に地堂に於て我を裸体にし、敵は食に因りて死を入れたり、十字架に木は地に樹(た)てられて、生命の衣を人人に贈れり、全世界は凡の喜びに満てられたり。其挙げらるるを見て、我等人人は、信を以て声を合せて神に籲(よ)ばん、爾の家は光栄に満ちたり。

  光栄、今も、同上。

  品第詞(ステペンナ)、第四調の第一倡和詞(アンティフォン)。

  提綱(ポロキメン)、第四調。

凡そ地の極(はて)は我が神の救を見たり。

句 新たなる歌を主に歌へ、蓋彼は奇跡を行へり。

  「凡そ呼吸ある者。」 福音経は巻末に載す。

  第五十聖詠の後に讃頌(スティヒラ)、第六調。

ハリストスの十字架、「ハリスティアニン」等の倚望(たのみ)、迷ふ者の導引(みちびき)、颶風(ぐふう)に遭ふ者の投泊(みなと)、戦ひに於ける勝利、世界の堅固(かため)、病者の医師、死者の復活よ、我等を憐め。

  尊貴にして生命を施す十字架の規程(カノン)。グリゴリイ 「シナイト」の作。イルモス二次、讃詞(トロパリ)十二段。第四調。

  第一歌頌

イルモス 「我が口を開きて。」

有能なる十字架よ、爾は使徒の誉れ、克肖者の力、信者の記号(しるし)、成聖者及び致命者の光栄、凡そ爾を讃め揚ぐる者の勝利と保固(かため)なり。

至尊なる十字架よ、爾は四極の力、使徒の飾り、致命者の固め、病む者の健康、死者の復活、陥る者の興起(おこし)なり。

十字架よ、我の為に能力(ちから)及び保固(かため)と為り、我と戦ふ者に対して援助(たすけ)及び防衛(ふせぎ)と為り、我の盾及び守護、保障及び勝利と為りて、常に我を護りて覆へよ。

  生神女讃詞

純潔なる者よ、爾が己の子の十字架に在るを見る時、哀しみの剣は爾の心を貫けり、爾は傷(いた)ましく哭(な)きて呼べり、然れども亦十字架の力を讃栄し給へり。

  共頌(カタワシャ)「モイセイは杖を以て十字架の縦を象りて。」

  第三歌頌

イルモス 「生神女、生活にして尽きざる泉よ。」

至尊なる十字架よ、爾は克肖者の武器、ハリストスの両刃(もろは)の剣、信者の飾り、病者の醫治(いやし)及び扶助(たすけ)、死せし者の興起(おこし)なり。

十字架よ、爾は敬虔の基、教会の飾り、悪鬼の滅亡(ほろび)、不虔者の敗壊(やぶれ)、審判の日に於て敵の辱めなり。

生命を施す十字架よ、爾は我の為に保固(かため)と勝利、盾と壊(やぶ)られぬ垣、悪鬼を遠ざくる者と悪念を消す者、及び我が智慧の守護(まもり)と為れ。

  生神女讃詞

女宰童貞女よ、爾の子は十字架に釘せらるる辱めと非義の死とを忍びたれども、不死の主として、挙げられて、悪敵の力を仆(たふ)し給へり。

  共頌(カタワシャ)「杖は秘密の預象として受けらる。」

  坐誦讃詞(セダレン)、第八調。

我が救世主よ、昔イイスス ナワィンは奥密に十字架の形を預像せり、彼が手を十字形に舒(の)べし時、爾神に逆(さか)ふ敵を斃すに至るまで日は停(とど)まれり、今は日(ひ)爾が十字架に在るを見て晦(くら)みたり、爾は死の権を敗りて、全世界を己と偕に起し給へり。

  光栄、今も、同上。

  第四歌頌

イルモス 「光栄の中に神性の宝座の坐するイイスス神は。」

ハリストスの十字架、大なる武器、勝たれぬ勝ちよ、爾は我等に畫(しる)されて、三刃(みつば)の剣として、幽暗(くらやみ)の首領を斬る。

生命を施す十字架よ、爾の高さは空気中の君(きみ)を撃ち、深さは淵の蛇を刺し殺し、廣さは畫(しる)されて、爾の力にて世の君(きみ)を斃す。

主よ、爾は十字架に挙げられて陥りし者を起し、地上の性を升せて、神の宝座に坐せしめ給へり、十字架、大いなる高さ、天の梯(かけはし)よ、我が霊を諸慾の深處より速やかに升せ給へ。

  生神女讃詞

至浄なる生神童貞女よ、爾の手を十字形に十字架に挙げられし者に舒(の)べて、凡そ熱心に爾に祷る者の為に今彼に祈祷を捧げ給へ。

  共頌(カタワシャ)「主よ、我爾が摂理の秘密を聆き。」

  第五歌頌

イルモス 「萬物は爾が神妙の光栄に驚かざるなし。」

十字架、諸徳に登す天の梯(かけはし)よ、爾はハリストスの高度(たかさ)及び光栄なり、神の記号(しるし)、見ゆると見えざる世界の為に同じく尊き者なり。

十字架、無量なる力の記号(しるし)よ、爾は水を聖にし、空気を潔め、凡の人を光照す、爾はハリストスの記号(きごう)及び帝笏にして、諸敵を地に倒す者なり。

全能の十字架よ、無知に爾を憎みて誹(そし)る悪敵を斃せ、異邦民の驕りを滅ぼせ。嗚呼ハリストスを載する至聖なる十字架よ、爾の権能を以て我等を護れ。

  生神女讃詞

萬衆の女王女宰よ、爾の産の権能にて十字架の力を謗(そし)る者の激昂を止め、我等衆に堅固と潔浄とを予へ、我が皇帝に佑助(たすけ)と勝利とを賜へ。

  共頌(カタワシャ)「嗚呼ハリストス王及び主が懸りたる木。」

  第六歌頌

イルモス 「神の信者よ、来りて、神の母の。」

十字架は衆人の復活、十字架は陥りし者の再興、諸慾の撲滅、肉体の禁制、十字架は霊の光栄及び永遠の光なり。

十字架は諸敵を滅ぼし、不虔者に傷をつけて之を虜にし、悪鬼を遠ざくる者、十字架は信者の権力、敬虔の者の守護なり。

十字架は諸慾を殺し、悪念を退くる者、十字架は異邦人の迷ひを解き、悪神゜を防ぐ者なり。

十字架は上げられて、空中の悪鬼の群(むれ)は墜ち、十字架は下げられて、不虔者皆戦く、十字架の力の電光(いなづま)の如きを見ればなり。

  共頌(カタワシャ)「イオナは海の猛獣の腹の中に。」

  小讃詞(コンダク)、第四調。
 
甘んじて十字架に挙げられしハリストス神よ、爾が同名の新たなる住處(すまひ)に爾の慈憐を賜へ、爾の力を以て我が皇帝を楽しましめて、彼に敵に勝たしめ給へ、彼は爾の援助(たすけ)として平安の武器、勝たれぬ旗を有てばなり。

  同讃詞(イコス)

第三重の天に楽園に挙げられて、道(い)ひ難き神聖なる言、人の舌を以て語る能はざる所を聞きし者は、何をかガラティヤ人に達して書する、書(しょ)を愛する者の読みて知れるが如し、曰く、我に在りては唯主の十字架、主が其上に苦を受けて諸慾を殺しし者の外に誇る所なしと。我等衆も此の主の十字架を堅く有ちて誇りと為す、蓋此の木は我等の為に救なり、平安の武器、勝たれぬ旗なり。

  第七歌頌

イルモス 「敬虔の者は造物主に易へて。」

我等は分離せず混淆せざる三者、惟一の神性たる、生れざる父、生れたる子、及び出づる聖神゜を祝讃して、歌を以て歌頌せん、我が先祖の神は崇め讃めらる。

三位なる神よ、爾の暮れざる光を以て我等の神霊の目を照して、人人に悟られぬ、諸天使に近づかれぬ爾の永在なる三光の華美を仰がしめ給へ。

讃美たる仁慈全能の神よ、爾の光の光線を以て吾が霊、跌(つまづ)きて恩寵の光より最(いと)深き暗(やみ)に陥りたる者を照して、滅亡(ほろび)より引き上げ給へ。

  生神女讃詞

潔き童貞女よ、己の手を十字架の木に舒(の)べ、我等の性を挙げて、敵の隊を殺しし主に向ひて、爾の手を十字形に舒べて、絶えず我等の為に祷り給へ。

  共頌(カタワシャ)「不虔なる苛虐者の威嚇。」

  第八歌頌

イルモス 「生神女の産は敬虔の少者を。」

勝利者たる十字架よ、爾は敵に対して弓及び剣なり、恥を得ざる武器及び勝たれぬ力なり、爾はハリストスの苦の高度(たかさ)なり、爾は其足台なり、其国の記号(しるし)、信者の権力なり。

生命を施す十字架よ、ハリストスが爾の上に釘せられしに因りて、爾は我等の陥りし性を起す者と為れり、爾は神聖なる高度(たかさ)、言ひ難き深度(ふかさ)、無量の廣度(ひろさ)にして、悟り難き三者の記号(しるし)なり。

来りて、皆今口と霊と心とを以て主の十字架に接吻し、之に伏拝し、之を讃め揚げて、共に歌ひて呼ばん、十字架、大いなる富、教会の飾りよ、慶べ。

三合格の十字架よ、爾は生命及び救の木、不死の木、智識の木、三重(みへ)に愛すべき不朽の木、三者の記号(しるし)なる尊き木なり。

  共頌(カタワシャ)「聖三者と同数なる少者よ。」

  第九歌頌

イルモス 「凡そ地に生るる者は聖神゜に照されて楽しみ。」

至りて愛すべき十字架よ、録(しる)されし如く、誰か能く爾の行動と、異能と、奇跡とを述べん、爾は地の中に立てられて、死者を復活せしめ、世界を興して、神に升らしむ。

三重(みへ)に福たる十字架、全能の木よ、爾は信者の記号(きごう)と能力なり、ハリストスの大いにして完全なる十字架よ、爾は使徒の誉れ、克肖者の固め、致命者の力、諸王の勝利及び栄えなり。

大名(たいめい)にして至福なる十字架よ、慶べ、至聖にして全能なる十字架よ、慶べ、我等の生命の守護者、主の讃美たる十字架よ、慶べ。

尊貴なる十字架よ、我が為に霊体の保護者と為れ、爾の記号(きごう)を以て悪鬼を斃し、諸敵を退け、諸慾を制し、我に祝福と、生命と、能力とを與へよ、聖神゜の行動と至浄なる童貞女の尊き祈祷とに因りてなり。

  共頌(カタワシャ)「生神女よ、爾は秘密なる楽園。」

  光耀歌

十字架は全世界の守護、十字架は教会の装飾、十字架は諸王の権柄、十字架は信者の堅固(かため)、十字架は天使の光栄、及び悪魔の苦悩(なやみ)なり。三次

  「凡そ呼吸ある者」に讃頌(スティヒラ)、第一調。

尊き十字架は凡そ疑はざる信を以て之に伏拝する者の為に天を開き、之に釘せられし主は愛を以て之を歌ふ者を無形軍の品位に合せ給ふ。

我等信を以て尊き十字架に伏拝して、其上に釘せられし主宰を歌ひ、彼の恩寵に由りて口と霊とを潔められ、其無形の光に照されて、彼を讃め揚げん。

昔モイセイは十字架の形を畫(しる)して、苦き水を甘くして、イズライリを救ひたり、我等衆信者は敬虔にして奥密に之を吾が心に畫(くわく)して、常に其力にて救はる。

  光栄、今も、第四調。

温柔なるダワィドに異邦人を服せしめん為に助け給ひし主よ、吾が皇帝を援けて、十字架の武器を以て我が諸敵を斃し給へ。慈憐なる主よ、我等の上に爾の古(いにしへ)の仁慈を現し給へ、衆が爾は実に神なり、又我等爾を恃みて、常に爾の至浄なる母に我等に大いなる憐みの賜はらんことを祈る者が勝利を得(う)るを知らん為なり。

  大詠頌、并に発放詞。

  聖体礼儀に真福詞、規程(カノン)の第三及び第六歌頌。

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