第二十編
 一人の致命女の総奉事



 晩課

 「主よ爾に籲(よ)ぶ」に讃頌(スティヒラ)、第四調。

光栄なる致命女、讃美たる(某)よ、爾は童貞の華麗及び致命の血を以て爾の霊を飾りて、己を造成主に委ね、彼に実に無玷(むてん)の者として永遠に護られ、此に由りて天使首及び天使の軍、并(ならび)に使徒、預言者、致命者の会と偕に歓びて祝う。

童貞女よ、爾は刃輪(はぐるま)に繋がれ、猛獣に裂かれ、火と水とに投ぜられて、聖神゜に籍(よ)りて爾の心を堅固にし、勇ましく幽暗(くらやみ)の魁(かしら)を血の流れの中に沈めて、霊智なる婚筵(こんえん)の宮に升り、受難を結納として爾の新娶者(はなむこ)に捧げたり。

讃美たる(某)よ、爾は新娶者(はなむこ)ハリストスの血に聖にせられて、爾の血を以て肉体の衣を飾りたり、斯の二つに照されて、彼の光明なる婚筵(こんえん)の宮に入るを得たり。彼に祷りて、信を以て爾の最(いと)尊き記憶を行ふ者が亡滅(ほろび)と諸々の禍ひより救はれんことを求め給へ。

  光栄、今も、生神女讃詞。

至浄なる少女よ、我爾を主に眠らざる祈祷を捧ぐる者として祷る、我が不当なる霊の諸害を眠らせ、激浪(あらなみ)を鎮め、我が憂ふる心を慰め、我の智慧に恩寵を降し給へ、我が宜しきに合(かな)ひて爾を讃栄せん為なり。

 十字架生神女讃詞

爾を生みし牝羊は爾羔(こひつじ)及び牧者が木の上に在るを見し時、哭きて母として爾に謂へり、至愛なる子、恒忍(ごうにん)なる主よ、如何ぞ爾は十字架に懸けられたる、言よ、如何ぞ爾の手と足とは不法の者より釘せられたる、主宰よ、如何ぞ爾の血を流したる。

  もし之あらば、自調。光栄、第六調。

勝たれぬ受難女及び致命女たる童貞女(某)は諸徳を妝(よそほ)はれ、潔浄の油と受難の血とに飾られ、欣ばしく燈(ともしび)を執りて、救世主の右に立ちて彼に呼べり、ハリストス神よ、我爾の香料の香(か)を聞きて趨れり、爾を愛する愛に刺されたればなり、天の新娶者(はなむこ)よ、我を退くる勿れと。全能の救世主よ、彼の祈祷に由りて爾の仁慈を我等に被らせ給へ。

  今も、生神女讃詞

至浄なる生神童貞女よ、爾に趨り附く者は一(ひとり)も恥を得て爾より出づるなし、即ち恩寵を求めて、益ある求めに適ふ賜(たまもの)を受く。

  十字架生神女讃詞

至浄なる者は爾が十字架に懸れるを見て、母として哭きて呼べり、吾が子及び吾が神、吾が甘愛なる産よ、如何ぞ爾は恥づべき苦しみを忍ぶ。

  もし多燭詞(ポリエレイ)を以て祭を行はば、復活の生神女讃詞第六調を誦すべし。

至聖なる童貞女よ、誰か爾を讃美せざらん、誰か爾の至りて浄(きよ)き産を歌はざらん、世の無き先に父より光る獨生の子は爾浄き者より言ひ難く身を取りて出で、本性の神は我等の為に本性の人と為れり、其位(くらい)一つにして相分れず、其性二つにして相失はず、浄くして至りて福(さいはひ)なる者よ、我が霊の憐れみを蒙らんことを彼に祷り給へ。

  聖入。本日の提綱(ポロキメン)。致命者の喩言(パリミヤ)三篇、巻末に載す。

  挿句(くづけ)の讃頌(スティヒラ)、第四調。

神智にして光栄なる致命女よ、爾は雄雄しき心を以て迫害者の驕り、強暴者の残酷に抗敵せり、世世に過ぎ去らぬ将来の福の楽しみを預見したればなり、爾は地より天の宮に移り、凱旋の会に加はりて、之を獲給へり。

句 神よ、爾は爾の聖所に於て厳かなり。

福たる者よ、爾は己の新娶者(はなむこ)たるハリストスの言ひ難き華麗と其国の栄華とを観るに勝ふる者と為り、爾の勇ましき苦しみの傷に飾られて、宜しきに合(かな)ひて福の泉に近づきたり、此に由りて豊に神聖なる楽しみと不死の光栄とを獲給へり。

句 イズライリの源より出づる者よ、教会に於て主神を崇め讃めよ。

至栄なる者よ、畏るべき恐嚇(おどし)も、婦女(をんな)の弱きも、飢えも、傷も、爾が致命者の勇敢に效(なら)ふを妨げざりき、爾は熱切なる心を以て種種の苦しみを忍び給へり、此に由りて天の宮に入り、恩寵の冠に飾られて、爾の造成主の前に立ち給ふ。

  光栄、第五調。

多くの苦しみを忍びたる尊き致命女(某)よ、光栄の王ハリストスは爾の童貞の華美を慕ひて、爾を無玷(むてん)なる新婦(はなよめ)として己に聘定せり、蓋己の旨を以て爾の徳に力を與へ、爾を諸敵と苦難とに勝たれぬ者と為し、傷(いた)ましき創痍(きず)と残酷なる苦しみとを忍びたる爾に二倍の栄冠を冠らせて、爾を妝(よそほ)はれたる女王(にょわう)として己の右に立て給へり。彼に祷りて、爾を歌ふ者に救と生命(いのち)と大いなる憐れみとを賜はんことを求め給へ。

  今も、生神女讃詞。

生神童貞女よ、我等信者は爾を讃美し、職として爾動かされぬ城邑(まち)、壊(やぶ)られぬ垣墻(かき)、我等の霊の堅固なる轉達者及び避所(かくれが)を讃栄す。

  十字架生神女讃詞

昔至福なる童貞女は己の羔(こひつじ)の十字架に挙げられしを見て、哭きて呼べり、嗚呼吾が子よ、如何ぞ爾は本性の不死なる神にして死する。

  讃詞(トロパリ)は奉事例に据る。もし奉事例になくば、左の讃詞(トロパリ)を誦せよ。第四調。

イイススよ、爾の牝羊(某)は大いなる声を以て呼ぶ、吾が新娶者(はなむこ)よ、我爾を愛し、爾を尋ねて苦しみ、爾と偕に十字架に釘せられ、死に於ける洗を以て爾と偕に葬られ、爾の為に難を受く、爾に縁りて王たらん為なり、爾の為に死す、爾と偕に生きん為なり、求む、愛を以て爾の為に屠られし我を無玷(むてん)なる祭として享け給へと。彼の祈祷に因りて、仁慈なる主として我等の霊を救ひ給へ。

  光栄、今も、生神女讃詞、或は十字架生神女讃詞。

  早課

  「主は神なり」に讃詞(トロパリ)同上。

  第一の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第五調。

神智なる尊き致命女(某)よ、爾は敬虔を以て全能者に服従して、不虔なる迫害者に服従せず、獄(ひとや)に閉さるることと劇(はげ)しき苦しみとを勇ましく忍耐して、神に移り給へり。爾の記憶を行ふ我等の為に祷り給へ。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

爾に趨り附く者の熱切にして勝たれぬ轉達者、堅固にして恥を得ざる恃頼(たのみ)、垣墻(かき)と帲幪(おほひ)と湊(みなと)なる潔き永貞童女よ、諸天使と偕に爾の子及び神に祈りて、世界に平安と救ひと大いなる憐れみとを賜はんことを求め給へ。

  第二の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第一調。

尊貴なる(某)よ、爾は聖神゜の露(つゆ)を以て苦しみの火を滅(け)して、神聖なる無形の光に移り、爾の福たる逝世の後に醫治(いやし)の流れを注ぎて、属神゜の力を以て諸慾の燃ゆるを遏(とど)め給ふ。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

生神女よ、爾の諸僕の祷りを納(い)れて、我等を凡の患難より救ひ給へ、爾はハリストス救世主、我が霊の贖罪主を生みたればなり。

  「主の名を讃め揚げよ」の後に附唱。

ハリストスの致命女(某)よ、我等爾を讃揚して、爾がハリストスの為に忍びし尊貴なる苦しみを尊む。

  抜粋聖詠

「神は我等の避所なり、能力なり。」

  多燭詞(ポリエレイ)の後に坐誦讃詞(セダレン)、第四調。

自由にハリストスに来たり、諸徳を以て心を飾りたる(某)を我等信者の大数は宜しきに合(かな)ひて歌はん、蓋彼は迫害者の強暴を辱かしめて、不法の者の中に日の如く輝き、逝世の後に地上の者の為に神聖なる国及び力と現れたり。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

天使の福音に因りて爾の胎内に言を受けて、身を取り給ひし神エムマヌイルを生みたる生神女よ、我等の霊の為に祷り給へ。

  品第詞(ステペンナ)、第四調の第一倡和詞(アンティフォン)。

  提綱(ポロキメン)

神よ、爾は爾の聖所に於て厳(おごそか)なり。

句 イズライリの源より出づる者よ、教会に於て主神を崇め讃めよ。 

  「凡そ呼吸ある者。」

  致命女の福音経、巻末に載す。

  第五十聖詠の後に讃頌(スティヒラ)、第六調。即「主よ爾に籲(よ)ぶ」の光栄。

至浄なる少女よ、我爾を主に眠らざる祈祷を捧ぐる者として祷る、我が不当なる霊の諸害を眠らせ、激浪(あらなみ)を鎮め、我が憂ふる心を慰め、我の智慧に恩寵を降し給へ、我が宜しきに合ひて爾を讃栄せん為なり。

  規程(カノン)、第八調。

  第一歌頌

イルモス 我等其民をして紅(くれない)の海を過(とほ)らせし主に歌はん、彼獨(ひとり)厳(おごそか)に光栄を顕したればなり。

讃美たる少女は奇跡を以て天上の軍と地上の会とに彼を歌頌することを勧む。

讃美たる者よ、萬有の主宰は最(いと)美(うるは)しき心の華麗を慕ひて、爾に天上の宮に入るを得しめ給へり。

致命女よ、爾は畏るるなく己を多種の創痍(きず)と痛傷(いたみ)と苦しみとに付(わた)せり、爾を助けて堅むる救世主の恩寵を有ちたればなり。

  生神女讃詞

至浄なる生神女よ、我等は爾身を取りし永在の神の言を性に超えて生み給ひし者を歌ふ。

  第三歌頌

イルモス 主よ、爾は爾に趨り附く者の固め、爾は昧(くら)まされし者の光なり、我が神゜は爾を歌ふ。

讃美たる者よ、爾は勇敢なる霊を有ち、裁判所に現れて、敵を勇敢なき者として之に勝ち給へり。

爾の華美の内に玷(きず)なく、爾の霊の内に汚(けがれ)なきに由りて、ハリストスは爾を新婦(はなよめ)として、不朽なる宮に入れ給へり。

ハリストスの讃美たる致命女(某)よ、爾の祈祷を以て吾が霊の傷を醫(いや)し、我が生命(いのち)の暴風(あらし)を鎮め給へ。

  生神女讃詞

聘女ならぬ聘女よ、我等衆「ハリスティアニン」は爾を我が避所(かくれが)及び垣墻(かき)として獲て、黙(もだ)すなく爾を讃頌す。

  坐誦讃詞(セダレン)、第八調。

ハリストスの讃美たる致命女よ、爾の血の流れは不虔者を溺らす洪水と為り、爾は恩寵の雨を以て常に霊智の田(た)を湿(うるほ)して、其内に信の穂を生長せしめ、死の後にも爾は神妙に生命(いのち)を養ふ雨雲と顕れ給へり。讃美たる受難女(某)よ、愛を以て爾の聖なる記憶を尊む者に諸罪の赦しを賜はんことをハリストス神に祷り給へ。

  光栄、今も、生神女讃詞。

我等萬族は爾童貞女、女の中に獨(ひとり)種なく身にて神を生みし者を讃揚す、蓋神性の火は爾の内に入り、爾は造成者及び主を幼児(をさなご)として乳(ち)にて養ひ給へり、故に天軍及び我等人類は宜しきに合(かな)ひて爾の至聖なる産を讃栄して、同心に爾に呼ぶ、ハリストス神に祈りて、熱切に爾の光栄を歌ふ者に諸罪の赦しを賜はんことを求め給へ。

  十字架生神女讃詞

牝羊は羔(こひつじ)、牧者、及び贖罪主の十字架に在るを見て、哀しみて呼び、痛く哭きて言へり、爾に縁りて贖罪を受くる世界は喜び、吾が心は爾の大いなる仁慈に由りて忍ぶ所の十字架の苦しみを見て燬(や)かる。恒忍(ごうにん)なる主、仁慈の淵、及び汲み尽くされぬ泉よ、慈憐を垂れて、信を以て爾の神聖なる苦しみを歌ふ者に諸罪の赦しを與へ給へ。

  第四歌頌

イルモス 主よ、我爾が摂理の秘密を聆(き)き、爾の作為(しわざ)を悟り、爾の神性を讃栄せり。

致命女よ、爾は己を神の睿智の無玷(むてん)なる鏡と為して、受難女の間に金色(こんじき)の燈(ともしび)として耀き給へり。

勝たれぬ致命女(某)よ、爾は闇黒(あんこく)なる悪鬼に祭を捧げざりき、敬虔の為に生(いのち)を施す死を受けんことを肯(がへん)じたればなり。

無玷(むてん)なる者よ、爾は他の致命者と同じく痛傷(いたみ)に與らざるが如き身を有ちて、神を愛するの熱きによりて創痍(きず)を感ぜざる者と止まれり。

  生神女讃詞

神よ、爾獨(ひとり)罪なき者として、爾を生みし者の祈祷に因りて、我等の諸罪を潔め、爾の世界を平安ならしめ給へ。

  第五歌頌

イルモス 主よ、我等夙(つと)に興(お)きて爾に籲(よ)ぶ、我等を救ひ給へ、爾は我等の神なればなり、爾の外(ほか)他(た)の神を知らず。

爾は光と世との相敵するを見て、世の君たる悪鬼を愛する欲せざりき。

致命女(某)よ、至りて凶悪なる者は悪計を以て爾の神聖なる力を弱めんと謀りて、哂(わらひ)と為れり。

讃美たる者よ、爾の祈祷を以て我に光照と平安とを與へて、我が甚しく乱れたる心を治め給へ。

  生神女讃詞

生神女よ、我等は爾を産の後に童貞女と歌ふ、爾は身にて世界の為に神を生みたればなり。

  第六歌頌

イルモス 光を衣の如く衣(き)る慈憐の深きハリストス我が神よ、我に光明の衣を予(あた)へ給へ。

光栄なる者よ、爾は女の身の中に霊の雄雄しき思ひを有ちて、猛獣と諸々の苦しみとを意とせざりき。

勝たれぬ致命女よ、爾は害せられずして、迫害者の高慢(たかぶり)に勝ちて、勝利の栄冠を受け給へり。

至栄なる者よ、新娶者(はなむこ)たる主は爾を徳行の者、華麗の者、尊貴の者、童貞の光に輝く者として、己の許に携へ給へり。

  生神女讃詞

獨(ひとり)福音の言に縁りて言を身にて生みし者よ、祈る、我等の霊を敵の網より脱れしめ給へ。

  小讃詞(コンダク)は奉事例に据る。もし奉事例になくば、左の小讃詞(コンダク)を誦せよ。第二調。
 
髙名なる童貞女致命女(某)よ、我等衆信者は爾の至尊なる堂を霊を醫す所として獲て、大声を以て爾に呼ぶ、ハリストス神に絶えず我等衆の為に祷り給へ。

  同讃詞(イコス)

我等集まりて、致命を以てハリストスの新婦(はなよめ)と為りし(某)を宜しきに合(かな)ひて尊まん、彼の祈祷に因りて、霊を害する諸事、及び疫病、地震、水難、火難等の禍ひを免れ、平安に生(いのち)を送りて、古世より神の悦びを得たる諸聖人と偕に光の中を行き、且(かつ)彼等と偕に歌ひて、救世主よ、爾は凡そ信を以て彼を讃め揚ぐる人人の上に爾の仁慈を奇妙に顕せりと唱ふるを得ん為なり。故に我等彼に呼ぶ、絶えず我等衆の為に祷り給へ。

  第七歌頌

イルモス 昔ワワィロンに於てイウデヤより来りし少者は、聖三の信を以て、爐(いろり)の焔(ほのほ)を踏みて歌へり、先祖の神よ、爾は崇め讃めらる。

神聖なる致命者の智慧に超ゆる勇気は現れたり、蓋萬有の造成主は、苦しみの中に、我が先祖の神よ。爾は崇め讃めらると呼ぶ者に造物を服せしむ。

高名なる少女は、聖神゜に因りて迫害者の空言(くうげん)の口を塞ぎ、至りて不法なる者の驕りを仆(たふ)して、敬虔に歌へり、我が先祖の神よ、爾は崇め讃めらる。

昔克肖なる三人(みたり)の少者は爐(いろり)を燃しし諸僕を焚(や)きたり、今神智なる者は三者を歌ひ諸僕を捕へて、先祖の神を歌はしめたり、神よ、爾は崇め讃めらる。

  生神女讃詞

救世主よ、爾は我等の救ひを行はんと欲して童貞女の胎内に入り、之を世界の轉達者と為し給へり、我が先祖の神よ、爾は崇め讃めらる。

  第八歌頌

イルモス 天使の軍の歌ふ所の天の王を崇めて、、萬世に讃め揚げよ。

女の中に至福なる者は至上者より報賞(むくい)の恩寵を蒙りて、ハリストスを萬世に歌ひて崇め讃む。

爾は新郎(はなむこ)の於ける思ひにて堅められ、熱切に肉体を死に付(わた)して、萬世に生き給ふ。

新郎(はなむこ)は奥密に至浄なる新婦(はなよめ)に爐(いろり)の中に来りて、父の恵に因りて聖神゜の露(つゆ)を以て彼を救ひて、世世にハリストスを歌はしむ。

  生神女讃詞

童貞女よ、爾に助けを求めて、爾を世世に歌ひて讃め揚ぐる者を棄つる勿れ。

  第九歌頌

イルモス 爾至上の神の婚姻に與らざる母、爾智慧に超えて言に因りて真の神を生みし者、至浄なる軍より高き者を、我等黙(もだ)さざる讃美を以て崇め讃む。

讃美たる致命女よ、活ける血の流るるは上より爾に賜はりたる不朽の生命(いのち)の徴(しるし)なり、蓋爾は汲む者の為に醫治(いやし)の尽きざる泉と現れたり。

神智なる者よ、死が性の法に由りて爾に触れたるに、爾は生(いのち)を施す死の状(じょう)を衣(き)、爾の最(いと)尊き身を脱ぎて、不朽に活(い)き給ふ。

高名なる(某)よ、我等皆爾を衆を照す日の光線とし、ハリストスの至りて美(うるは)しき新婦(はなよめ)とし、潔浄を愛する班鳩(やまばと)とし、実の繁き橄欖樹とし、香ばしき杉とし、選ばれたる鴿(はと)として讃め揚ぐ。

生神女讃詞

婚姻に與らざる聘女、香料の器、天の雨を降らす神聖なる輝ける雲を胎内に承(う)けし至りて潔き童貞女、真の神の母よ、我等爾を崇め讃む。

  光耀歌

(某)よ、爾は諸徳を以て新婦(はなよめ)の如く飾られ、受難を以て新郎(はなむこ)に聘定せられ、選ばれたる者として、童貞の燈(ともしび)を執り、光明なる宮の中に入りて、今輝きて、世世に存在する主と偕に王たり。

  生神女讃詞

嗚呼至淨なる童貞女よ、我等衆罪なる者は爾を轉達として有つ、爾の母たる祈祷を以て、爾の子を我等の為に寛容なる者と為し給へ。

  「凡そ呼吸ある者」に自調の讃頌(スティヒラ)、第三調。

我等信者は敬虔に行はるる受難者の慶賀を見て、議定に於て竒異なる我等の神に感謝の歌を奉らん、蓋彼は女の性に敵の力の見えざる攻擊に勝つを賜ひ、致命女の柔弱の中に己の神聖なる力を顕して、彼の祈祷に由りて我等の霊を救ひ給ふ。二次

ハリストスの讃美たる致命女(某)は其受難の血を以て真実を盈(み)つる爵を備へて、常に之を教会に進め、睿智の声を以て教会の諸子を呼び集めて言ふ、復活を證する飲料(のみもの)、悪敵を逐ひ、諸慾を潔め、敬虔の霊を養ふ者を斟(く)みて、救世主に呼べ、屬神゜の甘味(かんみ)の流れを我等に飲ましめし主よ、我等の霊を救ひ給へ。

生(いのち)を施すハリストスの血、贖罪の日に於て神の諸僕に印せらるる者を形どり、且救世主の永在の光栄を示す所の致命者の泉より我等に流れたる聖なる血を我等尊みて、楽しき心を以て呼ばん、爾の聖者の中に栄せらるる主よ、爾の至栄なる受難女の祈祷に因りて我等の霊を救ひ給へ。

  光栄、第六調。

至尊なる(某)よ、爾は受難の程(みち)を行きて、迫害者の勧めを避け、智なる童貞女として燈(ともしび)を執りて、爾の主の庭に入り、勇敢なる致命女として肉体の苦しみを醫(いや)す恩寵を受け給へり。求む、爾を歌頌する我等をも神に奉る爾の祈祷を以て霊の諸病より救ひ給へ。

  今も、生神女讃詞。

生神童貞女よ、我等は爾より身を取りし者の神なるを悟れり、彼に我等の霊の救の為に祈り給へ。

  十字架生神女讃詞

至淨なる者は爾が十字架に懸れるを見て、母として哭きて呼べり、吾が子及び吾が神、吾が甘愛なる産よ、如何ぞ、爾恥づべき苦しみを忍ぶ。

  もし挿句に光栄あらば、晩課の、今も、生神女讃詞、或は十字架生神女讃詞を誦せよ。

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