第十八編
 一人の克肖致命者の総奉事



 晩課

 「主よ爾に籲(よ)ぶ」に讃頌(スティヒラ)、第六調。

我等信者は睿智なる修斎者(しゅさいしゃ)の功労及びハリストスの軍士の苦難を職として讃め揚げて、主に呼ばん、ハリストス神よ、彼の祈祷に由りて我等を凡の患難より救ひ給へ。

克肖なる神゜父(某)、勝たれぬ軍士、爾を讃め揚ぐる者の為の祈祷者よ、爾劇(はげ)しき苦しみの暴風(あらし)を経たる勇敢なる者に神より大いなる平安は賜はりたる。

睿智にして捧神なる致命者よ、爾は法に遵(したが)ひて苦しみを忍びて、萬有の造成主神の為に宮と為り、教会の為に燈(ともしび)、克肖者の為に飾りと為り給へり。

  光栄、今も、生神女讃詞。

潔き生神童貞女よ、主に祈り給へ、彼が爾の祈祷に由りて我等の霊に諸罪の赦しと、平安と、大いなる憐れみとを賜はん為なり。

 十字架生神女讃詞

純潔なる生神女よ、爾は我等の生命(いのち)が木の上に懸れるを見る時、母として哭きて呼べり、吾が子吾が神よ、愛を以て爾を歌ふ者を救ひ給へ。

  もし之あらば、自調。光栄、第五調。

克肖なる神゜父よ、爾は己の目に寝(い)ね、己の瞼に眠るを容(ゆる)さずして、霊と体とを諸慾より潔め、己を備へて聖神゜の居所(きょしょ)と為すに至れり、故にハリストスは父と偕に来りて、爾の内に住居(すまひ)を為し給へり。一性なる三者の恩寵を受けたる大いなる伝道師克肖者よ、我等の霊の為に祈り給へ。

  今も、生神女讃詞

生神童貞女よ、我等信者は職として爾を讃揚し、爾を讃栄す、爾は我等の霊の為に堅固なる城邑(まち)、壊(やぶ)られぬ垣、有能の轉達者及び避所(かくれが)なり。

  十字架生神女讃詞

童貞女母、至福なる少女は昔己の羔(こひつじ)が十字架に挙げられしを見て、哭きて呼べり、嗚呼吾が子よ、本性の不死なる神にして如何ぞ死する。

  もし多燭詞(ポリエレイ)を以て祭を行はば、復活の生神女讃詞を誦すべし。

昔紅(くれない)の海にて婚姻を知らざる聘女(よめ)の象(かたち)記されたり、彼所(かしこ)にはモイセイ、水を分つ者、此所(ここ)にはガウリイル、奇跡に務むる者なり、彼(か)の時イズライリは足を濡らさずして深所(ふかみ)を歩み、今童貞女は種なくしてハリストスを生めり、海はイズライリの渉(わた)りし後(のち)元のまま過(とお)られず、玷(きず)なき者はエムマヌイルを生みし後(のち)元のまま玷(きず)なし、永遠にして最(いと)永遠なる者、人となりて現れし神よ、我等を憐み給へ。

  聖入。本日の提綱(ポロキメン)。致命者の喩言(パリミヤ)、巻末に載す。

  挿句(くづけ)の讃頌(スティヒラ)、第一調。

讃美たる(某)よ、爾の度生は諸徳を積むに在りき、故に信者は爾の教へに従ひて、歌を以て熱切にハリストスを崇め讃む、斯の教への世界に堅められんことを聖神゜の前に立ちて祈り給へ。

句 聖人の死は主の目の前に貴し。

神に感ぜらるる致命者(某)よ、爾の度生は地上に天使と侔(ひと)しき者と現れ、爾の表信は天上に馨香の祭及び芳ばしき香爐として捧げられたり。今我等の霊に平安と大いなる憐れみとを賜はんことを祈り給へ。

句 神を畏れ、其誡めを極めて愛する人は福(さいはひ)なり。

至栄なる(某)よ、爾は諸慾に勝つ者と為りて、迫害者に勝てり。福たる者よ、爾は戴冠者と偕に祝ひて、凡そ爾の記憶を行ふ者を記念して、今我等の霊に平安と大いなる憐れみとを賜はんことをハリストスに祈り給へ。

  光栄、第四調。

克肖致命者(某)よ、爾は聖神゜の助けに因りて、勝たれぬ軍士として、信の武器を以て悪敵に勝ち、無形の暗き軍を滅ぼし、法に遵ひて爾の戦ひを終へて、衆受難者及び克肖者の会と偕に栄冠を冠り給へり。

  今も、生神女讃詞。

ハリストス神の母、萬有の造成主を生みし者よ、我等を凡の危難より脱れしめ給へ、我等皆爾に呼ばん為なり、我が霊の惟一の轉達よ、慶べ。

  十字架生神女讃詞

至浄なる者は人を愛する主ハリストスの十字架に釘せられ、戈(ほこ)にて脅(わき)の刺さるるを見て、哭きて呼べり、吾が子よ、此れ何ぞ、恩を知らざる民は爾が彼等に為しし善に易へて何をか爾に報いたる、至愛なる者よ、胡為(なんす)れぞ我を子なき者として遺す、慈憐なる主よ、我爾が甘じて受くる釘殺を奇とす。

  讃詞(トロパリ)は奉事例に据る。もし奉事例になくば、左の讃詞(トロパリ)を誦せよ。第八調。

克肖なる神゜父(某)よ、神の像に由る者は爾の内に確かに救はれたり、蓋爾は十字架を任ひてハリストスに従ひ、過ぎ易き者たる肉体を軽んじ、不死の者たる霊のことに熱中するを行ひを以て教へたり。故に爾の神゜は諸天使と偕に喜ぶ。

  光栄、今も、生神女讃詞、或は十字架生神女讃詞。

  早課

  「主は神なり」に讃詞(トロパリ)同上。

  第一の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第四調。

爾は地上の過ぎ易き逸楽を顧みず、世の華麗と暫時の楽しみとを忌みて、野に居ることを愛せり、此に由りて致命者及び修斎者(しゅさいしゃ)の会に加へらるるを得たり、爾の諸僕を救はんことを彼等と偕に祈り給へ。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

女宰よ、ヘルワィムの座に坐し、父の懐(ふところ)に居る主は聖なる宝座に於けるが如く爾の懐に坐し給ふ、蓋神は人体を取りて、實に萬民の上に王と為り給へり。我等今思を全うして彼を歌ふ、爾の諸僕の救はれんことを彼に祈り給へ。

  第二の「カフィズマ」の後に坐誦讃詞(セダレン)、第八調。

福たる(某)よ、爾は斎を以て授洗イオアンの風習(ならはし)及びフェスワのイリヤの徳に效(なら)ひて、無形の者の如く度生し、諸天使と偕に聖三者を讃栄して、勇ましく悪鬼の攻撃に勝てり、故に又神妙に受難の功(こう)を立てて、盛んにハリストス神の光栄を輝かし給へり。彼に祈りて、愛を以て爾の聖なる記憶を祭る者に諸罪の赦しを賜はんことを求め給へ。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

我等萬族は爾童貞女、女の中に獨種なく身にて神を生みし者を讃揚す、蓋神性の火は爾の内に入り、爾は造成者及び主を幼児(をさなご)として乳(ち)にて養ひ給へり、故に天軍及び我等人類は宜しきに合(かな)ひて爾の至聖なる産を讃栄して、同心に爾に呼ぶ、ハリストス神に祈りて、熱切に爾の光栄を歌ふ者に諸罪の赦しを賜はんことを求め給へ。

  「主の名を讃め揚げよ」の後に附唱。

克肖致命者(某)、修道士の教師、天使等の対話者よ、我等爾を讃美して、爾の聖なる記憶を尊む。

  抜粋聖詠

「我切に主を恃みしに、彼我に傾きて。」

  多燭詞(ポリエレイ)の後に坐誦讃詞(セダレン)、第四調。

福たる(某)よ、爾は斎に於て錬達し、受難に於て輝きて、爾の功労を以て信者を照し給へり、故に我等皆同心に爾を崇め讃む。二次

  光栄、今も、生神女讃詞。

爾を頼む者の恥を得ざる倚頼(たのみ)、獨性に超えて身にてハリストス我等の神を生みし者よ、聖なる克肖致命者と偕に彼に祈りて、世界に諸罪の潔浄(きよめ)、我等衆の終りの先に度生の更新(あらため)を賜はんことを求め給へ。

  品第詞(ステペンナ)、第四調の第一倡和詞(アンティフォン)。

  提綱(ポロキメン)

聖人の死は主の目の前に貴し。

句 我何を以て主の我に施しし悉くの恩に報いん。 

  「凡そ呼吸ある者。」 克肖致命者の福音経、巻末に載す。

  第五十聖詠の後に讃頌(スティヒラ)、第八調。

克肖なる神゜父(某)よ、爾は神の像に従ひて有つ所を殘(そこなひ)なく守り、ハリストスの教へに従ひて得たる所を忍耐を以て敵に譲らず、迫害者の恐嚇(おどし)を畏れずして、属神゜の剣(つるぎ)を以て之を殺せり。故に克肖なる受難者よ、神の前に勇敢(いさみ)を得て、爾を尊む者を凡の患難より救ひ給へ。

  規程(カノン)、第六調。

  第一歌頌

イルモス イズライリは陸(くが)の如く淵を踏み渡り、追ひ詰めしファラオンの溺るるを見て呼べり、凱歌(かちうた)を神に奉らん。

克肖なる受難者よ、我が霊を世俗の誘惑(いざなひ)と我を攻むる諸慾より護りて、我に平安にして爾の記憶を讃美するを得しめ給へ。

至福なる克肖者(某)よ、爾は受難者として受難の栄冠を受けて、地より和平の世界に、光及び真(まこと)の生命(いのち)に移されたり。

至尊なる克肖致命者よ、爾は血の流れにて苦しみの焔(ほのほ)を滅(け)し、信者の霊を湿(うるほ)して、永遠の生命の望みを生ぜしめ給へり。

  生神女讃詞

神を容(い)るる幕、容(い)れ難き言を爾の腹に容れて、之を生みし潔き者よ、我を攻むる諸悪の劇(はげ)しき暴風(あらし)より我を援け給へ。

  第三歌頌

イルモス 爾が信者の角(つの)を高うし、我等を爾が承認(うけとめ)の石に堅めし仁慈の主、吾が神よ、爾と均(ひと)しく聖なるはなし。

至福なる受難者、克肖なる吾が神゜父よ、爾は神の力に堅められて、勇ましく己を迫害者に付(わた)して、種種の苦痛と苦難とを忍び給へり。

勤労する者の大いなる扶助者ハリストスは爾に能力(ちから)を與へて、迷ひを破り、妄りに誇りて空しく騒ぐ敵を辱かしむるを得しめ給へり。

克肖なる大受難者(某)よ、爾の美(うるは)しき足は苦しみの途(みち)に入りて、悪敵の首(かうべ)を砕きたり。

  生神女讃詞

我等は昔イアコフが見たる地より天の高きに至る神聖なる梯(かけはし)、及び主宰の宮たる潔きマリヤを歌はん。

  坐誦讃詞(セダレン)、第四調。

福たる(某)よ、爾は三重(みへ)にして三(みつ)の洗礼を以て洗せられたり、此れ水と火と聖神゜とを以てせしなり、即ち第一に涙を以てし、第二に節制と多くの功労と、天使に侔(ひと)しき度生とを以てし、第三に潔き羊として屠られて、ハリストス吾が神に捧げらるるを以てせり。彼に絶えず我等の霊の救はれんことを祈り給へ。

  光栄、今も、生神女讃詞。

生神女よ、爾の聘定者(へいていしゃ)及び保護者イオシフは爾の種なき降孕(はらみ)に於て性に超ゆることを見て驚きしに、思ひの中に羊の毛に降りし雨、火に焚(や)かれざる棘(いばら)、芽を出(いだ)したるアアロンの杖を納(い)れて、司祭等の前に證して呼べり、童貞女は生みて、産の後(のち)に復(また)童貞女に止(とど)まる。

  十字架生神女讃詞

子よ、爾が甘じて十字架に釘せらるる時、爾の苦しみの戈(ほこ)にて衆(おほ)くの心の念(おもひ)は露はれ、吾が霊は刺さる、誰か我の涕泣(ていきゅう)と肉身の苦痛とを見ん、誰か爾が真(まこと)の神たるを悟らん、言よ、我爾の慈憐を歌ふ、爾は此に由りて釘殺(ていさつ)を忍び給ふ。

  第四歌頌

イルモス 尊き教会は浄(きよ)き心より主の為に祝ひ、神に適ひて呼び歌ふ、ハリストスは吾が力と神と主なり。

至福なる者よ、爾は神の言に堅められ、己を害なく守りて、法に遵ひて斎し、法に遵ひて苦しみを受け、法に遵ひて栄冠を冠り給へり。

克肖者よ、爾は迷ひに従ふに忍びずして、睿智者として喜びて神智に就き、無形の光を受けて燈(ともしび)と現れたり。

(某)よ、爾は甘じて屠られて、聖にせられし祭として爾の為に屠られたる主に献ぜられて、天に録(しる)されたる冢子(ちょうし)と偕に安息して楽しみ給ふ。

  生神女讃詞

無玷(むてん)なる者よ、爾は産の後(のち)に産の前の如く童貞女に止(とど)まれり、蓋神言(かみことば)、爾の轉達に由りて我等を朽壊より救ふ主を生み給へり。

  第五歌頌

イルモス 至仁なる神の言よ、切に祈る、爾に朝の祈祷を奉る者の霊を爾が神の光にて照して、爾罪の暗(やみ)より呼び出だす真(まこと)の神を知らしめ給へ。

敵は勇敢なる致命者の多くの忍耐の武器に傷つけられ、其足に踏まれて、辱かしめられて笑(わらひ)と為れり。

至尊なる致命者よ、爾は迫害者の悪謀を退け、良善温柔にして、血を流して生命(いのち)を終へて、不朽の栄冠に飾られたり。

克肖なる(某)よ、爾の勤労を助け、迫害者に対して爾を堅め給ひし我等の惟一の神は致命者の栄冠を爾に冠らせ、修斎者(しゅさいしゃ)の尊貴を以て爾を栄し給へり。

  生神女讃詞

神の聘女(よめ)なる童貞女よ、神を見し預言者の会は遠くより爾の神聖なる産の言ひ難き奥密を悟りて、聖にせられし徴(しるし)を以て爾を予象せり。

  第六歌頌

イルモス 誘惑(いざなひ)の猛風(あらし)にて浪の立ち揚がる世の海を観て、爾の穏(おだやか)なる港に著(つ)きて呼ぶ、憐れみ深き主よ、我が生命(いのち)を淪亡(ほろび)より救ひ給へ。

聖にせられし我が神゜父よ、爾は生命(いのち)を施す主の手に導かれて、度生の水を無難に済(わた)り、熱切なる祈祷を以て迫害者の命令を其中(うち)に溺らし給へり。

克肖者よ、爾は小さき者を大いなる者に易へて、己を苦に付(わた)して、エワを誘(いざな)ひし蛇を神゜にて殺し給へり。

(某)よ、爾を誘(いざな)はんと欲せし悪謀者は爾の言の力を忍ぶ能(あた)はずして、残酷に爾を縲絏(なはめ)と、創傷(きず)と、苦しき死とに付(わた)せり。

  生神女讃詞

童貞女母よ、視よ、今主は言ひ難き慈憐に因りて爾の潔き血より身を取り、罪の外(ほか)全く人人と侔(ひと)しくなりて、我等の救ひを行ひ給へり。

  小讃詞(コンダク)は奉事例に据る。もし奉事例になくば、左の小讃詞(コンダク)を誦せよ。第二調。
 
我等は至栄なる(某)を熱切にして熟練したる修斎者(しゅさいしゃ)、敬虔なる野の住者、甘じて難を受けし尊き致命者として、歌を以て宜しきに合(かな)ひて讃め揚げん、彼は蛇を踏みたればなり。

  同讃詞(イコス)

至福なる(某)、克肖なる受難者よ、爾は主の苦しみに效(なら)ひ、彼の為に死して、偶像の虚しき迷ひを滅ぼさんことを熱望して、勇ましく諸敵と戦ひ、彼等の悪謀と悪計とを破りて、尊敬の栄冠を受け給へり。故に我等信を以て爾の帲幪(おほひ)の下に趨り附きて、爾に呼ぶ、見ゆると見えざるとの敵より我を救ひ給へ、爾は蛇を踏みたればなり。

  第七歌頌

イルモス 神の使(つかひ)は潔き少者の為に爐(ゐろり)に露を出ださしめ、ハルデヤ人を焼く神の詔(みことのり)は苦しむる者に呼ばしめたり、吾が先祖の神よ、爾は崇め讃めらる。

福たる睿智者よ、爾は肉体を惜しまずして、之を苦しみに付(わた)し、火に焚(や)かれて、少者の歌を歌へり、吾が先祖の神は崇め讃めらる。

克肖者よ、悪鬼は爾が修斎者(しゅさいしゃ)及びハリストスの致命者たるを知りて、唯(ただ)爾の名を呼ぶを以て逐(お)はる、蓋爾は熱切に歌ふ、吾が先祖の神は崇め讃めらる。

至福なる(某)よ、全能者の旨に因りて爾に終りは告げられたり、故に爾は更に大いなる斎に己を委ね、光栄より光栄に移りて、萬有の神たるハリストスの為に殺されたり。

  生神女讃詞

至浄なる童貞女、我怠惰(おこたり)に耽(ふけ)りたる者を起して、善行を行はしめ、常に我に抏敵(こうてき)して、悪しき思ひを以て我を誘(いざな)ふ敵に対して我を堅め給へ。

  第八歌頌

イルモス ハリストスよ、爾は潔き者の為に焔(ほのほ)より露を注ぎ、義人の祭の為に水より火を出せり、爾は一つの望みにて萬事を行ひ給へばなり、我等爾を世世に讃め揚ぐ。

至栄なる者よ、爾は修斎(しゅさい)の徳を備へられ、受難の傷に飾られて、勝利を賜ふ主の前に立ちて、彼より勝利の尊栄を受け給へり。

至栄なる(某)よ、爾は全能者を愛する愛に燃えて、敵の高ぶれる首(かうべ)を仆(たふ)し、爾の熱望に由りて神を受けて、世世に己の内に居らしめ給ふ。

神福なる致命者、克肖なる(某)よ、我に神の慈憐を得しめて、爾を尊みて爾の帲幪(おほひ)の下に趨り附く者を諸々の誘惑(いざなひ)及び災禍(わざはひ)より脱れしめ給へ。

  生神女讃詞

神の過(とほ)りし聖なる山よ、慶べ、聖にせられし奥密の発露(あらはれ)、畏るべき風聲(ふうせい)、仰ぎ難き顕見(けんげん)よ、慶べ、陥りし者を興起(おこし)たる童貞女よ、慶べ。

  第九歌頌

イルモス 天使の品位すら見るを得ざる神は、人見る能(あた)はず、唯(ただ)爾至浄の者に依りて人体を取りし言は人人に現れ給へり、我等彼を崇めて、天軍と偕に爾を讃め揚ぐ。

神智なる我が神゜父(某)よ、爾は至極の華麗及び甘味に至り、神に近づきて、無形の者と偕に歌ふ、聖、聖、聖なる哉全功全能の三者や。

克肖なる(某)よ、爾は捕ふる網を逃れて、天に適ふ華麗の中に寝りて、致命者の軍に合せられたり、今無形の者と偕に我等衆の為に祈り給へ、我等が爾を讃美せん為なり。

爾はハリストスの能力(ちから)及び権を恃みて、悪鬼の抏敵(こうてき)に勝ち、上なる港に着きて、美(うるは)しく飾られ、盛んに神の光に照さる。

生神女讃詞

母童貞女よ、我等は爾の産の測り難き奇跡を悟るを得ずして、寗(むしろ)緘黙(もだし)を以て之を讃栄し、爾女の中に獨(ひとり)純善無玷(むてん)にして至福なる者を歌頌せん。

  光耀歌

克肖なる(某)よ、爾は先づ受難に因りて善く試みられ、次に斎を以て神聖なる程(みち)を尽くして、天に升りてハリストスの前に立ち給ふ。神父よ、熱心に爾を歌ふ者の為に祈り給へ。

  生神女讃詞

言ひ難き歓喜(よろこび)たる主を生みし至浄なる童貞女よ、我等衆真(まこと)の恩寵たる爾を尊む者を天の歓喜(よろこび)に與らしめ給へ、我等霊を全うして爾に呼ぶ、祝讃せらるるマリヤよ、爾の諸僕を忘るる毋れ。

  「凡そ呼吸ある者」に讃頌(スティヒラ)、第六調。

光栄なる克肖者よ、爾は致命者の血を以て聖にせられし衣を赤(あけ)にして、宜しきに合ひて至聖所に入り給へり、彼所(かしこ)は言ひ難き光の所、神の光栄の所、慶賀する者の声のある所なり。睿智なる(某)よ、爾に致命者の勝利と萎まざる栄冠、永遠の光栄と楽園の居所(すまひ)を賜ひし主に勇敢(いさみ)を以て我等の霊の為に祈り給へ。二次

光栄なる受難者、睿智なる(某)よ、受難の激浪(あらなみ)も、暗き獄(ひとや)の裏(うち)に爾を隱す永き閉鎖(とざし)も爾の霊を動かさざりき、即ち爾は神に悦ばるる受難者として、虚妄の暗(やみ)の内に苦しむ者の中(なか)に在りて、彼等の為に光として輝き、彼等を聖洗の浴盤に因りて、救ひの産を以て光の子と為し給へり。

克肖致命者(某)よ、誰か宜しきに合ひて爾の徳を顕さん、何れの口か能く爾の受難と忍耐とを言ひ出さん、蓋爾は斯の二つを以てハリストスの悦びを為し給へり。今多くの勇敢(いさみ)を有つ彼の役者(えきしゃ)として、我等の霊を救はんことを祈り給へ。

  光栄、第二調。

来りて、歌を以てハリストスの受難者を讃め揚げん、彼は世界の為に美(うるは)しき百合花(ゆり)、神の楽園に開きたる花、正教者の無垢なる羊、潔淨の模範、信の固め、節制の光栄と現れたり、故に彼は天国の不朽の栄冠を受けたり。

  今も、生神女讃詞。

神の母よ、我が盡(ことごと)くの恃みを爾に負はしむ、我を爾の覆の下に守り給へ。

  十字架生神女讃詞

潔き童貞女よ、爾は耕作せられずして胎内に宿しし実れる葡萄の房が木の上に懸かれるを見し時、哀しみて哭きて呼べり、吾が子よ、慈憐なる恩主として、我爾を生みし者に縁りて、甘味を滴らして、其神聖なる慰めを以て諸慾の醉(よひ)を盡(ことごと)く醒まし給へ。

  もし挿句に光栄あらば、晩課の、今も、生神女讃詞、或は十字架生神女讃詞を誦せよ。



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