ズナメニイに親しむ

ズナメニイ・チャント (ズナメヌイ・ラスペフ)

Знаменные роспев Znameny chant


ズナメニイ聖歌の特徴

 ズナメニイに限らず、ほかのどのチャント(古聖歌)にも言えることですが、ことば(テキスト)と音楽が一体となっています。祈りのことば、讃美のことばに音楽的な色合いをつけて唱えると言ってもよいでしょう。

 ことばのイントネーションやアクセントに沿っているのは言うまでもありませんが、さらに、ことばの意味や重要性によって、音の高さや装飾性を変えます。たとえば、「神」「光栄」などのことばには比較的高い音があてはめられ、逆に、「地」、「人」などには低い音が与えられます。また、文脈中のキーワードには複雑なメリスマが当てはめられる場合もあるし、その日が大きな祭りであればあるほど、多くの音に長いメリスマが施され、祝祭的な気分を高めます。

 ズナメニイなど正教会のチャントの場合、たくさんあるメロディ定型の中から、適当なものを選び、微調整しながら組み合わせて一つの歌を形作ってゆきます。多くの場合、昔から歌い継がれてきたものを踏襲して歌いますが、ことばと音楽の強調点、フレージングなど聖歌者の裁量に任されている部分もかなりあります。ちょうど、正教会の伝統イコンが、型は決まっているけれども、材料や細かな色合いや配置が画家に任されているのと似ています。

 歌い継がれてきた「型」のひとつとして、ポドーベン(希:プロソミオン)という歌い方があります。既にある歌のメロディに当てはめて歌う「替え歌」の歌い方です。替え歌ポドーベンの元歌になるのがサモポドーベン(希:アウトメロン)で、元歌にも替え歌にもならない独立独歩の歌が「自調」(サモグラセン、希:イデオメロン)です。17世紀以降失われてしまったものも多く、近年研究が盛んになっています。

 ズナメニイ聖歌の場合、グレゴリオ聖歌と異なり、旋法というよりもメロディ定型の集合体としての八つの調が基本になります。メロディ定型は各調固有のものもありますが、全部の調に共通なもの、特定の調だけに共通なものもあります。革命前のロシアの教科書などには、西洋音楽の教会調と同様に、リディヤ、フリギア、正格変格などの名前をつけて説明したものもありますが、正教会の八調は西洋の教会調とは異なり、特にズナメニイでは各調の違いは旋法としてではなくメロディ定型の違いに表れます。

継続性と多様性

 正教会では過去から伝えられた伝統を受け継ぐと同時に、時代や地域の影響を取り入れることを否定しません。ズナメニイの場合もビザンティンのギリシアの祈祷文、音楽を受け継ぎましたが、スラブ語に翻訳しスラブ語で歌うとき、言語自体の持つ音楽性、地域の民族的な音楽も取り入れながらロシア固有のズナメニイ聖歌が発展してゆきました。ですから、ズナメニイ聖歌といっても、一枚岩ではなく、各地、各修道院ごとにヴァリアント(変形)が生まれ、また後には西洋音楽の影響も受けました。ですから、同じタイトルの聖歌を解読した楽譜を見ても、採譜した場所、時代、歌った人、さらに採譜した人の解釈も加わるので、極端なことを言えば一つとして同じものがありません。

ズナメニイ聖歌の資料、写本、原本

 ズナメニイ聖歌はクリュキー(ストルプ)というネウマ記号で記譜されますが、17世紀以前の古いものは解読されていません。19世紀になってラズモフスキーD.V.Razumovskii、メタロフV.M.Metallovなどによってズナメニイの研究が進みました。近年、ロシアでもズナメニイ聖歌が見なおされ、クリュキーで記譜したもの、五線譜に書いたもの、録音したものなどが各地で出版されたり、インターネット上で公開されたりしています。

 教科書的なものとして代表的なのは、1915年にモスクワで出版されたカラシニコフ版『アズブーカ』азбукаです。以下のサイトでpdf版ダウンロードできます。このページからは、ズナメニイのさまざまなリソースがダウンロードできます。
http://www.synaxis.info/krylos/istochniki/


 そのほかに二次的な資料ですが大変役に立つ資料として、キエフ譜表と呼ばれる四角音符の五線譜表示のオビホードがあります。代表的なのものに1909年に宗務院が出版した5巻の「オビホード」*обиходъ нотнаяпенияがあります。この本は聖体礼儀、徹夜祷に必要な歌に加え、八調経、三歌斎経と五旬経、祭日経の主な歌がすべて含まれます。1966年カトリックの修道院(ベルギー、ベネディクト会シュヴェトーニュ)で再版されました。また1916年にノブゴロドで出版された『聖歌者の手引き』Спутник псалмщкаも1959年にアメリカのジョルダンヴィル修道院で再版されており、比較的手に入りやすい資料となっています。

*オビホードとは、原意は「通常部聖歌」で、日替わりでない奉神礼の枠組みを作る聖歌集を言う。しかしロシアでは、通常部聖歌に加え、主日、主な祭日に必要な聖歌を集めた本を指すようになり、やがて1846年以後宗務院から出版されアレクセイ・リヴォフ、ニコライ・バフメテフによるた「宮廷教会の歌に準拠した聖歌集」を指すようになった。リヴォフ・バフメチェフ・オビホードとも呼ばれる。ロシアの国策により、リヴォフ・バフメテフ・オビホードはロシア教会の標準聖歌集としての立場を持つようになった。


目 次

講座 ズナメニイ研究会  2008年8月開講 2009年12月終了。

    ズナメニイの記号。四角音符の五線譜。
    
ズナメニイ聖歌を日本語で歌ってみよう 

    スラブ語の四角音符の楽譜と日本語のテキストにあてはめた楽譜。 

○ズナメニイ資料集
    ロシアの古聖歌(チャント)について J.V.Gardner

○ズナメニイ参考リンク集